【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　１１

　大晦日の朝、落合まゆらは旧市街のアパートの玄関を開けた。外に出て扉を閉めると鍵をかけ、ノブを回して施錠をしっかりと確認し、徒歩で寝子島駅へと向かう。目的地は埼玉県さいたま市にある実家だ。
（あ、これ買って行こうかな）
　キャリーケースをごろごろと引いて歩きながら、途中で色々とお土産を買っていく。
（お、重い……）
　饅頭やクッキー等、割と嵩張るお菓子の箱を沢山買ってしまい、指の１本１本にビニール袋を下げている状態になってしまった。寝子島には創意工夫のあるお土産が多いから仕方がない。だが、家族の嬉しそうな顔を想像すると、気分が上がった。
（皆、喜んでくれるといいな）
　駅に着いて改札を通ってホームに行くと、スーツケースやキャリーケース、リュック等、大きめの荷物を携えている人達で賑わっていた。
　やってきたねこでん寝子島線で鎌倉に到着すると、島から同乗していた人達がばらけていく。帰省なのか旅行なのか、それぞれの目的地に別れていく中、まゆらは鎌倉で横須賀線に乗った。
（着いたー！）
　更に大船で東海道本線高崎行きに乗り換えて、そのまま大宮へと降り立ったまゆらは、人心地ついて歩き出した。良く知っている場所に辿り着くと、自然と体と心の力が抜ける。
　てくてくとさいたまの街を歩くこと数分。
　どうってこともない街並みに溶け込むようにして建つ、どうってこともない一軒家の前で足を止めた。
「ただいまー」
　玄関を開けると、母が廊下に顔を出した。
「おかえり。まあ、なあに？　その荷物」
「お土産。買い過ぎちゃった。皆で食べよー」
「あら、それじゃあありがたくいただくわね」
　母は土産を全て受け取り、居間へと戻っていった。まゆらは自室に入ると、キャリーケースを隅に置いてベッドに座った。
「夏休み以来だけど、ちっとも変わってないなー」
　変わられても困るし、寂しいので変わらなくていいのだけれど。
「アニメでも観ようかな」
　この家は自分を受け入れてくれる場所だということを再確認し、温かい気持ちになったところで日常を楽しむことにした。
　画面に映し出したのは『魔法少女ミスティックアリア』だ。何度観ても心が弾み、未来への希望が湧いてくる。声優になりたいという思いが強くなる。
　このアニメは、まゆらが声優を志すきっかけになった、特別なものだった。

「それで、来年のアニメに出ることになったんだって？」
「モブだけどね」
　夜、家族で集まった中で質問され、まゆらは照れ笑いを浮かべながら話をする。
「モブでも凄いよ。家族の名前がテレビで流れるなんて興奮するし。オーディション受けたんだ？」
「えっとね、というか……」
　いくら専門学校に通っていても、基礎の基礎をやっている１年生でオーディションを受けさせてもらえることはない。それこそ、特待生でもない限り。
　まゆらのクラスは外郎売もやっていない段階だったので猶更だ。
「じゃあ、何で？」
「アニメ関係の人が授業を見学に来た時があってね。劇の練習をしてたんだけど、あたしの声を気に入ってくれたみたいで」
　得意げに話すと、家族はえーーーっと目を丸くした。父は嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
「良かったな。これをチャンスにして頑張れよ」
「うん！」
　テレビでは、紅白歌合戦の前のニュース番組をやっていた。それを見ながら年越しそばを食べ、まゆらの持ってきたお土産をおやつにお茶を啜りつつ始まった紅白を観る。紅組のトップバッターは『魔法少女ミスティックアリア』の主題歌を担当しているアイドル声優だった。アニソンとして異例のヒットを出し続けている彼女は、既に紅白の常連だ。
「♪　～～♪　～～～♪」
　まゆらはテンションが上がり、彼女に合わせて気持ちよく歌った。白組の演歌歌手の番が来たところで我に返り、皆を見回す。
「えへへ……」
　すっかり家族の視線を浴びてしまい、まゆらは顔を赤くした。