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【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略
１３
いつもは寝子島を離れて祖父の家で過ごすのだが、都合により今年は寝子島でゆっくりとすることになった鴻上 彰尋は、年越しそばを作って弟妹達と食べていた。
「あ、カウントダウンが始まったよー！」
「５！ ４！ ３！ ２！ １！」
「ゼロ！ 明けましておめでとうございまーす！」
「おめでとうございまーす！」
まだ幼い弟妹達は、２３時頃から始まった音楽番組のテンション高いカウントダウンに合わせて楽しそうに年を越していた。
「明けましておめでとう。ほら、もう寝る時間だぞ」
「はーい」
「はーい！」
二人は洗面所で歯を磨くと、寝室へ入っていった。彰尋は想い人である七夜 あおいに新年を祝うメールを送り、これからどうしようか考える。
「……初日の出でも見に行くか」
エノコロ岬に行くと、多くの人で賑わっていた。一人で来ている者も結構多い。ここには『猫恋の鐘』というスポットがあり、一緒に鳴らした人と共に永遠の祝福がもたらされると言われている。それが、年越しの間は一人で鳴らしても新年を幸せに過ごせるという噂が流れている為に一人で訪れる者も多いのだろう。
（早く着いたし、俺も並んでみよう）
新しい年もぜひ良い一年になってほしい。鐘を鳴らして幸せを分けてもらいたい、と彰尋は思った。朝日まではまだ長い時間がある。ゆっくりと待とう。
（昨年はすごく色んなことがあったな）
列に並びながら、彰尋は一年を振り返る。彼の家族構成は複雑で、それもあって家族関係ではある事実を知って――否、思い出したりもしたが、彼の中で一番印象深かったのは恋愛事だった。あおいに告白した５月から、様々な出来事を経て距離が少しずつ近付いている気がする。
そんな事を考えていると、順番が来た。いざ鐘を鳴らしてみると、気が引き締まってくる。
（来年は受験生になるんだよな……）
緊張が高まると共に、新しい年への期待も高まる。何だかすっきりとした気分になった。
残りの時間を日の出が見やすい海の近くで過ごそうと移動を始める。
（あれ？）
何の気なしに歩いていたら、人混みの中に見間違いようのないツインテールな後ろ姿を見つけた。青い浴衣を着て、下駄をからころと鳴らしている。
「あおいさん」
「あ、彰尋くん」
振り返ったあおいは、ぱっと笑顔になった。
「さっき、メールしたけど……改めて、明けましておめでとう」
「おめでとう！ 今年もよろしくね」
彼女はにこにこと言葉を返してくれる。周囲を軽く見てみたが、同行者はいなさそうだった。
「あおいさん、今日は一人？」
「あ、うん」
あおいはあっさりと頷いた。
「友達と一緒に初詣に来て、お詣りが終わって別れたんだけど、まだ眠くなかったからこっちに来たの。初日の出でも見ようかなーって」
「……そうなんだ。じゃあ、よかったら一緒に見ないか？」
「うん、いいよ！」
誘ってみると、あおいはすぐに頷いてくれた。一人で見ても寂しいもんね、と。
「彰尋くんも初日の出を見に来たの？」
「ああ、でも、時間があったから猫恋の鐘も鳴らしてきたんだ」
「えっ、猫恋の……鐘？」
「そう。知っているかもしれないけど、今日は一人でも鐘を鳴らすと幸せになれるんだ」
「う、うん……。……何か、ごめんね……。彰尋くんが願う相手って……。でも、私は……」
あおいは、顔を曇らせて俯き気味に言った。この時ばかりは、彼女が何を言いたいのか察しがついた。自分の想いにまだ答えを出せないことを申し訳なく思っているのだろう。
「いや！ それは気にしなくていいんだ。俺は待つって答えたんだから」
「でも……」
あおいの顔はまだ曇っている。彰尋は殊更に笑顔を作って――それから少し冷静になって穏やかに笑った。
「ただ……一緒に鳴らす事は出来ないけれど、あおいさんの幸せを祈ること位は許されないかな、と思って」
それは、確かな彼の本心だった。
「……！」
顔を上げたあおいは、辛そうな表情で首を振った。
「もちろん、もちろん嬉しいよ……！」
慌てた様子できょろきょろとして、猫恋鐘を鳴らす為に並んでいる列を笑顔で指さす。
「じゃあ、私も彰尋くんの幸せを願おうかな。あれを鳴らして……」
あおいは彰尋の手を引っ張って、列に並んだ。
「あおいさん……いいの？」
「うん。お礼だからね」
「でも、それって……」
彰尋の恋の幸せというのは、つまり――
「あ！ 初日の出だよ！」
その時、並びながらも水平線の方を見ていたあおいが明るい声を出した。周りもざわざわと、日の出方向に注目していく。
「綺麗だねー！」
「……本当だ、綺麗だね……」
ゆっくりと昇ってくる太陽に、彰尋は自然と願っていた。
（どうかあおいさんにとっても、よい一年でありますように）
いつもは寝子島を離れて祖父の家で過ごすのだが、都合により今年は寝子島でゆっくりとすることになった鴻上 彰尋は、年越しそばを作って弟妹達と食べていた。
「あ、カウントダウンが始まったよー！」
「５！ ４！ ３！ ２！ １！」
「ゼロ！ 明けましておめでとうございまーす！」
「おめでとうございまーす！」
まだ幼い弟妹達は、２３時頃から始まった音楽番組のテンション高いカウントダウンに合わせて楽しそうに年を越していた。
「明けましておめでとう。ほら、もう寝る時間だぞ」
「はーい」
「はーい！」
二人は洗面所で歯を磨くと、寝室へ入っていった。彰尋は想い人である七夜 あおいに新年を祝うメールを送り、これからどうしようか考える。
「……初日の出でも見に行くか」
エノコロ岬に行くと、多くの人で賑わっていた。一人で来ている者も結構多い。ここには『猫恋の鐘』というスポットがあり、一緒に鳴らした人と共に永遠の祝福がもたらされると言われている。それが、年越しの間は一人で鳴らしても新年を幸せに過ごせるという噂が流れている為に一人で訪れる者も多いのだろう。
（早く着いたし、俺も並んでみよう）
新しい年もぜひ良い一年になってほしい。鐘を鳴らして幸せを分けてもらいたい、と彰尋は思った。朝日まではまだ長い時間がある。ゆっくりと待とう。
（昨年はすごく色んなことがあったな）
列に並びながら、彰尋は一年を振り返る。彼の家族構成は複雑で、それもあって家族関係ではある事実を知って――否、思い出したりもしたが、彼の中で一番印象深かったのは恋愛事だった。あおいに告白した５月から、様々な出来事を経て距離が少しずつ近付いている気がする。
そんな事を考えていると、順番が来た。いざ鐘を鳴らしてみると、気が引き締まってくる。
（来年は受験生になるんだよな……）
緊張が高まると共に、新しい年への期待も高まる。何だかすっきりとした気分になった。
残りの時間を日の出が見やすい海の近くで過ごそうと移動を始める。
（あれ？）
何の気なしに歩いていたら、人混みの中に見間違いようのないツインテールな後ろ姿を見つけた。青い浴衣を着て、下駄をからころと鳴らしている。
「あおいさん」
「あ、彰尋くん」
振り返ったあおいは、ぱっと笑顔になった。
「さっき、メールしたけど……改めて、明けましておめでとう」
「おめでとう！ 今年もよろしくね」
彼女はにこにこと言葉を返してくれる。周囲を軽く見てみたが、同行者はいなさそうだった。
「あおいさん、今日は一人？」
「あ、うん」
あおいはあっさりと頷いた。
「友達と一緒に初詣に来て、お詣りが終わって別れたんだけど、まだ眠くなかったからこっちに来たの。初日の出でも見ようかなーって」
「……そうなんだ。じゃあ、よかったら一緒に見ないか？」
「うん、いいよ！」
誘ってみると、あおいはすぐに頷いてくれた。一人で見ても寂しいもんね、と。
「彰尋くんも初日の出を見に来たの？」
「ああ、でも、時間があったから猫恋の鐘も鳴らしてきたんだ」
「えっ、猫恋の……鐘？」
「そう。知っているかもしれないけど、今日は一人でも鐘を鳴らすと幸せになれるんだ」
「う、うん……。……何か、ごめんね……。彰尋くんが願う相手って……。でも、私は……」
あおいは、顔を曇らせて俯き気味に言った。この時ばかりは、彼女が何を言いたいのか察しがついた。自分の想いにまだ答えを出せないことを申し訳なく思っているのだろう。
「いや！ それは気にしなくていいんだ。俺は待つって答えたんだから」
「でも……」
あおいの顔はまだ曇っている。彰尋は殊更に笑顔を作って――それから少し冷静になって穏やかに笑った。
「ただ……一緒に鳴らす事は出来ないけれど、あおいさんの幸せを祈ること位は許されないかな、と思って」
それは、確かな彼の本心だった。
「……！」
顔を上げたあおいは、辛そうな表情で首を振った。
「もちろん、もちろん嬉しいよ……！」
慌てた様子できょろきょろとして、猫恋鐘を鳴らす為に並んでいる列を笑顔で指さす。
「じゃあ、私も彰尋くんの幸せを願おうかな。あれを鳴らして……」
あおいは彰尋の手を引っ張って、列に並んだ。
「あおいさん……いいの？」
「うん。お礼だからね」
「でも、それって……」
彰尋の恋の幸せというのは、つまり――
「あ！ 初日の出だよ！」
その時、並びながらも水平線の方を見ていたあおいが明るい声を出した。周りもざわざわと、日の出方向に注目していく。
「綺麗だねー！」
「……本当だ、綺麗だね……」
ゆっくりと昇ってくる太陽に、彰尋は自然と願っていた。
（どうかあおいさんにとっても、よい一年でありますように）
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2020年05月10日
- 参加申し込みの期限
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- 2020年05月17日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2020年05月17日 11時00分
