月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

「ふざけるなとは、なんだ！」
　熊吉は仁王立ちで怒り心頭だ。
　何度も声をかけて無視されて、あげくに「ふざけんな」と言われれば熊でも怒る。
「お前はたしか……」
　熊吉は天野の顔には見覚えがあったが、名前が思い出せずにうーんと唸るが……天野はジャージ姿で、胸にはご丁寧に名前が入っていた。
　ようやく熊脳がピーンときた。
「逆巻！！！」
「あ、はい……」
「体育の授業はどうしたー！」
「あ、いや……これは……ヤバい！」
　天野は走り出した。
「これはヤバい～～」
「こーのバカタコがーっ！！！」

　屋上から見ていた飛鳥は大喜び。
「逃げろー！　１年！　追えー！　鬼熊～！」

　天野は、校庭に出たが行き場がなく、講堂方面へと校庭内を走り出した。
　そこはちょうど短距離走のコースで、まさに記録を測っていた。
「よーい」
　ピッ！
　浅井の笛が鳴り響き、凄まじいスピードで天野が駆け抜けた。
「なんだ、逆巻いたのか。遅刻で出席、と」
　出席簿に付けている間に、熊吉がドタドタと追いかけていく。
　熊吉を恐れていつも以上のスピードで走る天野を、クラスメイトたちは呆気にとられて見守った。
「逆巻って、あんなに速かったっけ？」
「おいおい、この記録ヤバいだろ～？」
「あいつは、風になったんだ！」
　そう、天野は風になった。熊吉に追いかけられると誰もがそのスピードを増すのだ。
「待てー、バカタコがーっ！」

　天野は校庭を出て南校舎に入ると、階段を駆け上がった。
　気がつけば終点、塔屋の中。電気が消えていて、暗い中、肩で息をしていた。
　息を沈めながら、追いかけてくる音がないか、耳を澄ましてみる。
　静寂。
　何やってんだろ、僕は。
　そんなことを思いながら、ふっと一息ついて目の前の扉をあけると、そこは雨の屋上だった。
「狐の嫁入りか……」
　天を仰ぐと、火照った顔に雨があたる。
「君かー、よく逃げのびたね」
「どうしてそれを？」
「ここから見てたんだよ。なんで追っかけられてたのかは知らないけどね」
「たいしたことじゃない」
「ああ、たいしたことじゃない。ここは熊の出没に最も注意が必要なスポットのひとつだということも……ね！」
「え」
　天野が振り向くと、熊出没！
「バカタコがーっ！！」
　と突進してくる熊を、天野と飛鳥は同時に左右に分かれてさっとかわした。
　勢い余ってフェンスにツッパリをかます形になった熊は、空に向かって吠えている。
　飛鳥と天野は目が合い、
「行こう！」
　と駆けだした。
　天野も階段を滑るように降りていった。
　すぐに誰かにぶつかったが、それどころではない。
（何事だろう？　ここでぶつかってばかりだ）
　やってきたのは、昼休みにここで落とし物をした御剣刀だ。
　薄暗い塔屋の中で、「やっぱりここか」と何かを拾い上げ、顔を上げると……
「え？　何？　まさか……」
「バカタコがーっ！」
　バチーン。
　哀れ、刀。女子にモテない男子からの怨念が、熊の張り手に宿ったのだろう。残念だが、仕方ない……。