月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

　放課後。
　授業が終わり、雨が止んで、屋上にはのんびりとした心地よい空気が流れていた。

　カキーン。カキーン。

　第２グラウンドの野球場からは金属バットの音が鳴り響いていた。
　篠崎響也は、熊吉に喰らった張り手の痕を押さえながら、それを聴いていた。
　小気味いいバットの音に突き動かされたのか、ヴァイオリンを演奏したい気持ちになっていた響也は、ヴァイオリンの入ったケースをトントンと叩いていた。
　こんなところで演奏すると言っても、人がくるだろうし、どうしたものか……そんなことをぼうっと考えていると、演奏する気満々の者が、前を通っていった。
　着々と機材を運び込むのは、軽音楽部の雨寺凛だ。
　続いてあがってきたのは霧生深雪。
　二人はキーボード、アンプ、ギターと次々と運び込んでいる。
「深雪センパイ、どうしようー？」
　アンプは電池式のため電源は不要なのだが、どうやら壊れていてそのままでは使えないらしい。
「電源がとれれば、別のアンプが使えるんだけどな……」
「電源なら、配線をのばして３年の教室からとったらどうかな？」
　思わず口を出したのは、響也だった。
「それ名案！」
　凛は思わずとびあがって喜んだ。
「わたし部室からアンプとってくるから、深雪センパイ３年の教室よろしく！」
「ああ、そうだな。教室を見てくるか」
　二人は慌ただしく屋上を出て行った。

「まだ早いかな……」
　千鳥雅人は遠くの太陽を見つめた。
　ここから見る夕陽は実家から眺める光景を思い出すようで、気持ちが落ち着く。
　だから雅人は、何があるわけでもないが、たまにふらっとここに来るのだった。
　ゆっくりとフェンスにもたれかかって眼下を眺めると、生徒たちの姿が目に映る。
　家路につく人、友だちとお喋りしている人。校庭ではサッカー部が練習していて、その声がここまで聞こえてくる。
　遠くに聞こえる部活の声は、どうしてセンチメンタルな気持ちにさせるのだろう……。
　雅人はフェンス越しに辺りを見渡し、校庭の脇のベンチに腰掛ける男女を見つけた。
　遠くにいるため誰と誰が何をしているのかはよく見えなかったが、きっとカップルが寄り添って愛を語らいあっているのだろう。
（父さんと母さんも、ああやって寄り添いながら夕日を見てたなあ……。）
　寝子島高校ののんびりとした、とてもやさしい光景を見ていると、穏やかな心地になっていく。
　だが、なぜか物騒な事件も増えていることが、彼の心を苦しめた。
　――この光景を守りたい。
　運動はあまり得意ではないし、ろっこんだって使えないけど、何か自分にもできるはずだ。頑張ることは、誰にも負けない！
　思わず気持ちが高まった雅人は、無自覚のろっこんが発動してアホ毛がビンビン前のめりに立っていた。
　ちなみに、校庭のベンチにいた二人は、愛を語らっていたわけではない。
「あの図体でよくあれだけ走れるね」
「まったく……」
　ようやく熊吉から逃れた逆巻天野と晴海飛鳥が疲れ果てて労をねぎらい合っていただけだった。
　そんな二人の前を、野良猫が一匹てくてくと歩いていた。
　雅人はそれを見て、ふと思った。
（そうだ、のんびりマイペースだけど、やるときはやる。それが猫だ。僕も猫のように頑張ろう！）
　そのときだった、雅人の思いに呼応するかのように空から猫のかけ声が聞こえてきた。

「にゃーっ！」

　振り向くと、塔屋の上に維都月茉菜が立っていた。