月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

　刀と海、能美子のお食事会は、焼そばパンをむさぼり食っている連中とは一線を画す優雅さで、屋上でも一際浮いていた。
　「普通」の食事が終わり、能美子による食後のデザートの時間だ。
　お洒落なシートを用意していた能美子だが、彼女のおもてなし精神はそれだけではなかったのだ。
「少し待っててね」
　とシートが入っていた箱をあけると、今度はガラスのティーポットが出てきた。
　繊細なフォルムに上品なデザインで、相当な高級品であることが素人目にもわかる。猫鳴館住まいの生徒には見ることも許されないレベルの品物である。
「すごいな……」
　圧倒される刀と海だった。
　能美子は、ガラスのティーカップを丁寧に置いた。
「せっかくだからお茶を淹れたいなって」
　次に箱から出したのは、球根のような謎の物体だった。
「？」
　戸惑う二人をよそに、能美子はティーポットにポトリと入れた。
　水筒から熱湯を静かに注いでいくと……
「！」
　球根のようなものは少しずつ開いて、湯の中で花が咲いたではないか。
『これは　なんですか』
「工芸茶というのよ。ベースが茉莉花茶だしさっぱりするかなあって」
　この演出力、半端じゃない！
　まさにこの一角に花が咲いたようだった。
　海は筆談しようとする手が動かなかった。なんと言っていいのか、言葉にできない感動だ。

　そして続いて出てきたのは、さくらんぼ入りのゼリーだ。
「美味しい！」
『おいしい』
　海も刀も、あっという間に食べてしまった。
　お茶に花が咲いて、場に花が咲いて、会話にも花が咲くと思ったが……
「弘明寺は料理もできるんだな」
「できないと思ってたのかしら」
「いや、そういうつもりじゃないんだが、ごめん……」
　どうも能美子を怒らせてしまうことの多い刀だが、今回も不用意な発言をしてしまった。
　が、実際このゼリーは完全に自力で作ったわけではなく、メイドさんに泣きついて教えてもらったものだった。すっかりそのことを言うタイミングを失って、能美子は複雑な心境だった。
　何はともあれ、弁当とゼリーを食べて、おなかはいっぱいだ。
　剣道の鍛錬で疲れている刀や早起きして弁当を作った海は、すっかり眠くなってしまった。
「弘明寺、このシートの上で、少し寝てもいいかな」
「ここで寝るの？　睡眠はベッドでとるものと思ったけど……」
　しかし、今日はお昼寝日和。
　刀と海は、もう眠っていた。
　能美子は眠る２人を見て、ポツリ。
「これ、普通じゃないわよね……？」
　１人お茶を嗜む能美子だった。