月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

　なんて、気持ちのいい天気だろう。
　猫がのんびり日向ぼっこして、ごろりと昼寝をするのにぴったりな、そんな午後だ。
　そう、まさに『ねこ日和』。
　維都月茉菜は、そう思うと、猫のように叫ばずにはいられなかった。
　屋上で、自分の上には空しかないこの景色で、叫ばないなんてもったいない。

「にゃーっ！」

　でも、まさか返事がくるとは思っていなかった。

「にゃーっ！」

　千鳥雅人が振り向いて叫んでいた。自分でも何をしているのかと驚いている様子で。
　茉菜は少しおどけて片手を挙げると、「にゃあ」と挨拶してみた。
「にゃあ」
　雅人もおどけて、返してきた。
　二人は少し恥ずかしく、少し気持ちよかった。
　ふふっと小さく笑うと、茉菜はもう一度叫んだ。
「にゃーっ！」
「にゃーっ！」
　ついつい返してしまう雅人。
　にゃーにゃー気分の２人は、手を挙げてみたり、足を挙げてみたり、いろんなポーズでにゃあにゃあ言っていた。
　これは、はたからみたら、かなり変な人たちである。
　３年の教室と折り合いがついたのか、戻ってきた霧生深雪はその光景に驚いた。
「なにやってんだ？　千鳥と維都月か……うん、仕方ないな」
　仕方ないらしい。
　茉菜は思いっきり深呼吸すると、今まで以上に大きな声で、空に向かって、

「にゃーーーーーっ！！！」

　あまりの大きな声に圧されて、応えるべきかどうか躊躇う雅人だったが、茉菜の声に反応する「猫」は彼だけではなかった。
　ここは校庭よりの南校舎の屋上だが、なんと北校舎の屋上から返事がとんできた。

「にゃーーーーーっ！」

　八神修だ。
　普段は冷静沈着な優等生だが、どうしたというのだろう。
　彼にもこういうお茶目な一面があるのか、それとも茉菜を振り向かせるための計算か、それは誰にもわからないが、振り向いてにっこり微笑む茉菜の表情を……
　パチリ。
　三脚に立てた望遠レンズ付きのカメラでばっちり撮影した。
　修も屋上からの光景に惹かれた者の一人だ。
　屋上からの空、九夜山、海、そして第２グラウンドの野球部の練習風景を撮影していた。
「……だめか」
　落神神社も撮りたかったのだが、こんもりした森に埋もれて、どこにあるかもわからなかった。
「別の角度から見ることができれば面白いと思ったのだが……」
　と、もっと面白い何かを求めて、望遠レンズをのぞいた。
「何をしてるんだ？」
　深雪が配線を延ばして校舎の下に投げたりしている様子が見える。
　そこへ雨寺凛がアンプを抱えてやってきた。
「アンプか……本当にやるつもりなんだな……む。アレは？」
　凛はアンプの他に、楽器を持ってきていた。自分のギターではない。それは既に屋上に運んである。
「もしかして……」
「エレキバイオリンか？」
　驚いたのは、篠崎響也だ。
　凛は響也のバイオリンケースを見て、一緒にやれたらと思ったのだろう、部室にあったものを拝借してきたのだ。
　エレキバイオリンを差し出されて戸惑う響也は、凛と深雪を交互に見た。
　凛は響也にニッコリと笑いかけ、深雪は「やれよ」と言わんばかりに頷いた。
「……やるか」
　響也はエレキを受け取った。
　こうしてツーピースバンドはスリーピースバンドになり、チューニングや簡単な音あわせが始まった。