１２月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の☆ハッピーバースデー

☆１２月２２日

　今年もあと１週間ほどの１２月２２日。
　寝子島総合病院の内科医である深倉理紗子は、この日、休暇をとり都内の墓地に赴いた。
（今日は私の誕生日──二十代最後の一年を迎える日）
　隣には親友で、ヴァイオリニスト深林真瞭。
　向かうのは、理紗子の次姉紗智子が眠っている墓だった。
「紗智子さんのお墓参りに来るの、何年ぶりかな」
　真瞭はつぶやいた。
「そうね……私はできるだけ来るようにはしているけど」
　そう答えた理紗子と共に、お墓の周りの掃除をする。

　二人で花を手向けて、手を合わせた。
「お姉ちゃん、今年はね……まーちゃんといろいろあって喧嘩してしまったのよ」　
（今年は色々あった一年だったわね……）
　真瞭もこの一年のことを思い出す。　
　二人は中学生以来の親友だったが、ほんの些細なボタンの掛け違いがきっかけで、少しずつ二人の間は引き裂かれてしまった。
「ホワイトデーに、東京にいるはずだったまーちゃんと会って、なんだか様子がおかしいと思って……」
「私、仕事でいろいろあって寝子島のマンションに逃げ込んでいることを知られたくなくて、嘘をついてしまったのよね。そして、ウソがばれているのが、怖かった」
　些細なすれ違いで互いを傷つけあうような日々を過ごしたこと。
　つい最近になってやっと和解したことなど。
　今年一年、あったことを報告した。ありのまま、何もかも。
「まーちゃんに嘘をつかれるなんて思わなかったから……私、話も聞かずに、ひどいことを言ってしまった」
　報告しているうちに、理紗子の声が涙声になり、そのうち涙がボロボロと零れてきた。
　あとからあとから止めどなく。
　真瞭がそっと、理紗子の肩に手を添えてくれた。
（あたたかい）
　理紗子は嬉しかった。
「まーちゃんとは、このままずっと擦れ違ったまま、もう二度と手の届かない遠い所へ行ってしまうんじゃないかと思った」
「楽団をやめて、楽になったわ。もう大丈夫」
　微笑む真瞭は言う。
「天国の紗智子さん、私たちのことどう見ていたんだろう？　悲しんでいた？　それとも呆れていた？」
　そんなつぶやきに、はっとしたように理紗子が言う。
「もしかしたら……あの時ビーチスターズコンテストで偶然出会えたのは……こんな私たちの様子を見かねたお姉ちゃんが、私たちが仲直りするようにしてくれた……？　まさかね……？」
「そう……そうなのかしらね？」
　真瞭が答えを返す。
　会えたから、楽団でのことを話せた。
　あの偶然の邂逅がなかったら、今でも二人はすれ違ったまま、重苦しい心を抱き続けていたのかもしれない。
「誘われてビーチスターズコンテストに出たから、一緒に歌えたから……りさちんの言葉を素直に聞けたのよね」
「もしそうなら……手をわずらわせてごめん……でも……ありがとう……お姉ちゃん……」
　理紗子の目に、また涙があふれてきた。
「来年３０になるのに、お姉ちゃんより年上になのになぜ泣き虫のままなんだろう……」
「紗智子さんより年上──ふたりとも２９歳にになったのに、ちっとも成長してないよね、私たち」
　真瞭は少し笑って、それからお墓に向かって言った。
「紗智子さん。まだまだ頼りないけれど、もう少しだけ、私たちのこと、見守っていてください……」
　答えるように、風が吹いた。
　冬なのに不思議に優しい風だった。
　二人は目を見交わし、墓地を後にした。

　寝子島に帰る電車の中で、理紗子はそっと言った。
「まーちゃん……頼りない私だけど……これからも友達でいてくれる？」
「もちろんよ、りさちん。……誕生日、おめでとう」
　また涙が溢れてきた理紗子に、真瞭がそっとハンカチを差し出した。

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