１２月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の☆ハッピーバースデー

☆１２月２４日

　クリスマスイブの寝子島総合病院。
　救急医の志鷹佑都は、朝から心疾患、感染症、急性アルコール中毒、交通外傷で救急搬送された、重篤患者の治療に追われ時が過ぎた。
　
　夜、ICUで患者の処置を終えた頃、幼い男の子と母親が救急外来を受診した。
　ぐったりした子供は顔が赤く辛そうだ。
　発熱しているが、聴診器を当てれば胸の音は悪くはない。
　発疹もない。
　念のためインフルエンザの検査もして、陰性を確認した。
「風邪ですね。薬を処方します」
　沈着でクールな印象の佑都だが、性格は至って温厚で物腰も柔らかい。
　幼少期に産婦人科医の母に憧れ医の道を志し、母のように患者と心に寄り添える医者で在りたいと願っている。
「かえりたい……サンタさん、ちゃんと来てくれる？」
　母親に心配そうに尋ねる男の子の言葉に、佑都は優しい笑みを向けた。
「サンタさん、来てくれるといいね」
（少しでも良くなって、明日は楽しいクリスマスを過ごして欲しい）
「症状が改善しなければ小児科を受診してください」
　子供の頭を優しく撫でながら、そう母親に伝えた。
　親子を見送り、ふと時計を見ると時刻は23時30分。
（今日は大切な妹の誕生日）
　既にプレゼントは渡してあるが、やはり当日にお祝いの言葉を贈りたい。
「ちょっと電話してきます」
　同僚に断りを入れて当直室へ向かうと、携帯で妹に電話をかけた。

　木天蓼大学医学部看護学科四年生の志鷹柚葉は、自宅の自室にて参考書を捲る手を止めた。
　可憐な容貌に満月のような美しい金色の瞳を持ち、豊かな焦げ茶色の髪を胸下まで伸ばしている。
　柚葉は、可愛らしいねこが描かれた来年の手帳を手に取り、笑みを漏らす。
　それは昨日長兄の佑都がくれた誕生日の贈り物だった。
（今日は友達もお父さんお母さんも、お姉ちゃんもお兄ちゃんもお祝いをしてくれて、とても幸せな一日だった）
　柚葉には兄が二人いて、薬剤師を志す一つ上の兄は顔を合わせて直接お祝いしてくれた。
　しかし手帳をくれた兄は今日の朝から明日の夜まで仕事の為、会うことも、声を聞くことも出来ない。
（寂しいな……）
　と思っていると、突如携帯が鳴った。
（お兄ちゃん）
　相手の名前を確認し、すぐに出る。
「もしもし？」
　電話口で佑都は、聞き慣れた可愛らしい声に安堵した。
「ごめん、寝てた？」
「ううん、起きてたよ。国試の勉強をしていたの」
「誕生日おめでとう。柚葉。……今日会えなくてごめんな」
　できることなら直接会って言いたかったけれど、激務で予定を合わせるのも困難だった。
　いつも支えてくれる妹に申し訳なく思う。
「ううん。お兄ちゃんもお仕事お疲れさま。忙しいのに……電話してくれてありがとう」
　柚葉も、忙しいのに自分を労ってくれる兄を労う。
　そして、誕生日という大切なこの日に、伝えたいことがあった。
「あのね……お兄ちゃん。時間はかかっちゃうかもしれないけど……私、お兄ちゃんとお姉ちゃんを支えられるような、立派な看護師になるから」
　心に傷を抱えながら、兄が一人でも多くの命を救う為に人知れず努力し、尽力してきたことを柚葉は知っている。
（そんなお兄ちゃんを、立派な看護師となり、支えること……それが私の目標）
　そして、看護師となり一年も経たずに病で命を落とした、長兄の恋人――自分を可愛がってくれた大切な人――との、大切な約束だった。

　柚葉の言葉に、佑都は胸を突かれる思いだった。
　心優しい妹は、自分がそうであったように、時に理想と現実の違いに苦しみたくさん悩み、たくさん泣いてしまうだろう。
（でもその涙は必ず人生の糧となり彼女は患者から信頼される、よき看護師になれると俺は信じている）
　だから佑都は、妹の真摯な想いを受け止めた。
「柚葉ならなれるよ」
　微笑みながら励ましの、心からの言葉を贈る。

　残念ながらゆっくり話している時間はない。
「それじゃ、おやすみ」
　という兄の優しい声に、柚葉は囁いた。
「おやすみ。お兄ちゃん。 ……無理、しないでね」

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