【フォルカの決断】

　アリス・ミーティアは拳銃を連射し、狙いバッチリ！　襲撃犯の手にした武器を次々に弾き飛ばしていきます。
　アリスの背中へ斬りかかる敵には、ルーク・ポーラスターが長剣をぶおんと振り抜いて弾き返し、がっつりガード。ナイスコンビネーション！
「やるじゃん、アリス！」
「ありがと、ルーク♪」
　舞踏会のために着込んだドレスとタキシード姿のままだというのに、銃弾と剣閃は瞬く間に敵を薙ぎ倒し、数を減らしていきました。
　ぷかぷかと葉巻をふかすケインを守るように立ち、旅鴉 月詠は周囲を一瞥します。
「お前さんたちは、冒険者か。ずいぶんと腕が立つようだな、楽勝じゃないか」
「まあ、荒事には慣れてる。とはいえ……」
　どかどかとやかましい無数の足音が響き渡り、彼らは再びぐるりと男たちに囲まれました。新手です！
　獣人たちに加えて、ゴブリンやオークなどある程度話の通じるモンスターも手勢の中に含まれていて、屈強な彼らはいかにも厄介です。
　月詠はため息ひとつ、
「いささか多勢に無勢か。やれやれ、私もやるべきかな……おや？」
「まてまてまてーーー！！」
　駆けつけたのは敵ばかりではありませんでした。
「やっと見つけました！」

「虎の子メリィ、さんじょー！　ケインはやらせないぞー！」
　ずざざざっと割り込んだのはリリエル・エーテライトと、メリィ・ランページ。無事ゴースト姿から元に戻ることができたようです。
　それに、ぽいと仮面を投げ捨てた水上 桜の素顔もそこにはありました。
「ケインさんの襲撃計画の情報を掴んだのよ。慌てて駆けつけたら、案の定ってわけね」
　桜はネックレスに宿した魔風の力で、風の防壁をケインの周囲へ作り出しながら、今回もハードな夢だわ、とひとつぼやきます。
　アリスとルークは巧みに体を入れ替えながら銃を撃ち、剣を振るい。リリエルの星の力の援護を頼りに、メリィは敵のど真ん中へと突撃！　彼らの隙を狙う襲撃犯には、桜の放つ風の刃が飛びました。
　予期せぬバトル。大立ち回り！
「こ、こいつら強え……！」
「おいっ何やってる！？　こっちは高い金払ってるんだぞ！」
「んなこと言ってもよ、こいつは話が違うぜ！　マクブライドをちょいと痛めつけるだけの軽い仕事のはずだろうが、冒険者が相手なんて聞いてねーぞ！」
　どうやら襲撃者たちは、ケインの商売敵らがお金でかき集めてきた街のチンピラたちのようです。
　そもそも相手が悪かったと言えましょう……なにしろアリスやルーク、リリエルにメリィ、桜といった面々は、手練れの冒険者。数々の危険や困難を腕っぷしと知略で乗り越えてきたのですから、ちょっとケンカが強いくらいのチンピラでは敵うはずもなかったのです。
　冒険者たちは、快進撃！
「お前ら、そこまでだ！」
　と。
「好き放題やりやがって。こいつを見な！」
「す、すまない。父さん……」
「……ち。アインか。えげつないことするじゃないか」
　舌を鳴らしたケインの前へ連れてこられたのは、ナイフを突きつけられて身動きも許されない、息子のアインでした。
　冒険者たちも思わずぴたりと動きを止め、襲撃者たちとの間には奇妙な沈黙と静かなにらみ合いが展開します。
　アインは悔しそうに目を伏せて、
「父さんのビジネスを助けるどころか、足を引っ張ってしまうなんて……」
「なあに気にするな、俺の身から出た錆ってヤツだ」
　葉巻を石造りの壁に押し付けて火を消すと、ケインは息子を捕らえた男たちをつまらなさそうに見やり、吐き捨てるように言いました。
「おい、目的は俺だろう？　だったらさっさと俺をやれ。そうしたら息子やこの親切な冒険者たちには、二度と手を出すんじゃない。分かったか、くそったれども」
　こんな状況に追い込まれつつもぎらついたままのケインの眼光に、襲撃犯はびくりと怯みます。
「そ、そんなのダメですー！」
「絶対やらせないんだから！」
　リリエルやメリィを始め、冒険者たちは止めに入ろうとしますけれど、アインの首元には依然として刃が押し当てられていて、身動きが取れません。
「へっ……いいだろう。ケイン・マクブライド、今こそ天誅を受けるがいい！」
「や、やめろお前たち！　父さん！　父さん！」
　アインの悲痛な叫びも意に介することなく、刃を携えた男はケインへと歩み寄り、下卑た笑みを頬に貼り付けたまま剣を振り上げます。
　ケインは静かに、目を伏せました。
　無慈悲な刃が、その首へと振り下ろされる……。
「ちょーっと待ちなよ！！」
　その、瞬間。
　がきーーーん！！　硬い金属音の後、宙を舞ったのはアインに突きつけられていたナイフでした。
　弾き飛ばしたのは、
「「……フォルカ！」」
　狐の盗賊、仮面をかぶったフォルカ・ヴィクスン。
　目を丸くしたのはアインです。
「フォルカさん……！」
「まあ、ほら。話は後あと！　今はこいつらを蹴散らさないとさ！」
　ぱちり、ウィンク。
　人質が解放されてしまえば後は、冒険者対街のチンピラの構図です。一気に盛り返した冒険者たちの再びの快進撃で、襲撃犯たちはあっさり、ボッコボコ！　事態は瞬く間に収束を見たのでした。



　サジタリオ城から到着した兵隊さんたちが、襲撃犯たちや彼らに雇われたチンピラたちを捕縛し、連行していくのを尻目に。
「フォルカさん……やはり来てくれたんだね」
　アインの真剣な眼差しにさらされて、フォルカはほんのり頬を染めつつ目を逸らします。
　そんなふたりをアリスにルーク、リリエルにメリィ、桜、月詠、それにケインもいっしょになって、じっくりと見守ります。
「まあ！　いよいよ結婚ですか……むぐっ」
　フォルカを追いかけてきたらしいユリーカ・ナントカの口を、リリエルとメリィが慌てて押さえます。あとは成り行きに任せるのみ！
「仮面を付けていても、僕には分かったよ。来てくれたということは、僕と結婚を……」
「……ダメだよ」
　ぴ、と、フォルカは指を一本立てて見せました。
　微笑みはちょっぴり儚げ。瞳は切なげに。
「あんたとは一緒になれないよ。あたし」
　フォルカの答えは、シンプルでした。
「理由を……聞いても？」
「だってさ、あんたはお金持ちの商人の子。あたしは裏路地育ちの盗賊だもん。それに……」
「それに？」
「夢は、捨てられないからさ」
　友人たちなら、彼女の夢を聞いたことがあったかもしれません。
　そう、フォルカが目指すのは、星幽塔一の大怪盗！
「あんたは良いやつそうだけど、さ。みんなの調べてくれた情報も聞いたよ、けど……きっとあたしたち、相入れない。別の世界に生きてるんだよ、だから……」
「あっ……！」
　引き留める間もなく、フォルカはたんっと床を蹴り、夜空へ跳び上がります。
「じゃあね、ボンボン！　ちゃんと良いトコのお嬢さんと、幸せになんなよね！」
「待ってくれ、フォルカさん！　僕はそれでもあなたのことが……！」
　ひょいひょいひょい、屋根から屋根へ。
　フォルカは月の中へと跳ねて、消えてしまったのでした。