【星幽塔】第一階層　星の明かりの仮面舞踏会｜リアクション

【星幽塔】第一階層　星の明かりの仮面舞踏会

【狐の恋の物語】

「えーーーっ、フォルカが結婚！？」
　星幽塔第一階層、サジタリオ城下町へ佇むBarアストラルに、アリス・ミーティアの声が響きました。
「ホントに？　おめでとー！　お相手はどんな人？」
「いやややや、早いから！　まだその、ほら、決まったわけじゃないから……！」
　真っ赤な顔は、フォルカ・ヴィクスン。彼女が求婚されたというウワサ話で今日の酒場は持ち切り、大盛り上がりなのです。
　酔客たちからにわかに注目され、フォルカは慌てた様子でぱたぱたと両手を振りながら、
「今日は仮面舞踏会！　そこであいつがあたしを見つけられたら、そのときはその……けっ、結婚してくれって」
「あら？　ご結婚が決まったわけではなかったのですか？」
　きょとんととぼけたお顔は、ユリーカ・ナントカです。ちょっぴり天然な彼女は、フォルカから相談を受けてからこちら、すっかり結婚話が進んでいるものと思い込んでいたのだとか。
「てっきり今日が、おふたりのご結婚を発表する舞踏会だとばかり。だってフォルカさん、あんなに熱心にドレスを選んでいらっしゃいましたし……」
「ち、違うから！　作戦のためだから！」
「作戦って？」
　アリスも小首を傾げます。
　そう、作戦！
　件のお相手、『アイン・マクブライド』という狼の獣人はとある商人の息子だそうでして。父親、『ケイン・マクブライド』はやり手でありながらちょっぴり黒いウワサも聞こえてくる人物で、果たしてその息子は真っ当なのか……！？
　そこんところを、今夜の仮面舞踏会で見極めてやろう！　というのが、彼女らの言う作戦というワケなのです。
「でもフォルカ。もしその人と結婚するなら、盗賊は続けていくの？　難しくない？」
「ええ？　そ、そこまで考えてなかった……それに相手のことだって、まだ分からないしさ。悪いヤツかもしれないじゃん？」
「人はみな、清濁あわせ持っているものだと思います。ほら、綺麗は汚い、汚いは綺麗と言いますし。フォルカさんのお気持ち次第かもしれませんよ？　うふふ」
　アリスはフォルカを友だちとして心配していますし、ユリーカはオトナの余裕でアドバイスをくれました。
　進むべきか、退くべきか。フォルカの結婚の是非を巡って、Barアストラルは（お酒のイキオイもあって）むやみやたらと盛り上がるのでした。
　と……ぱらり。ぺらり。
「逆正義。逆節制。愚者。世界。太陽」
　静かにカードを繰る音に、アリスたちは振り返ります。
「逆星。逆女帝、塔、戦車……女教皇」

　星幽塔でもマイペース。旅鴉月詠でした。
　カードを開くと、月詠は酒場の喧噪の中にあっても凛と張りつめた静かな口ぶりで告げました。
「君が進むと決めたなら、後押しする者は多いだろう。それに相手は商人の息子、彼を介すれば多くの知見も得られる……手離すには惜しい縁だ」
「それなら……」
「だからこそ、『落ち着け』」
　ぴたり。フォルカ当人をよそに盛り上がっていた店内は、水を打ったように静まります。
「君も、相手も、互いを知らない。君自身の望みも大事だが、一度に全てを得ようとすれば痛い目を見るだろう」
「そ、そう……だよね」
　なんだかんだで、フォルカもどこか乗り気なところはあったのかもしれません。色恋沙汰には疎いらしい彼女自身もまた、わけもわからず盛り上がってしまっていたのかもしれません。
　だからこそ、月詠の深みある言葉には、はっとしたような顔を浮かべました。
　と、場が引き締まったところで月詠はへにゃりと肩の力を抜き、
「とゆー占いの結果が出たよ。ま、見極めは大事とゆわけ。君の言うとおりにね」
　まずはお友だちから始めてみたら？　なんてかるーく言った月詠に、フォルカも、それにアリスとユリーカも、う～んと考え込んでしまいました。
　果たして、進むべきか退くべきか？
　仮面舞踏会は、今夜に迫っておりました……さてフォルカの結婚の行方はいかに！

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