【仮面舞踏会！】

　ほわーーー！　メリィ・ランページとリリエル・エーテライトは思わず口を開けて、見とれてしまいました。
　なにしろきらっきらの、ぴっかぴかです。どこもかしこもぴかりんこと輝きまくっております。古城はこれでもかと飾り付けられて、それでいて悪趣味というほどにぎらぎらとしているわけでもなく、程よくゴージャスです。
　ずんちゃずんちゃ、しゃららららんと優雅に奏でる管弦楽の調べに乗って、ステップを踏むのは仮面のセレブたち。上流階級の人々が顔を隠し身分を隠し、美しく着飾って、刹那の邂逅とダンスを楽しむのです。
　それに、
『やあ、お嬢さんたち。楽しんでいるかな？』
「わ、ゴースト！」
　古城にはぷかぷか、半透明にするりと透けたゴーストたちがたくさん。給仕をしたり、来場者にちょっとしたイタズラをしかけたり……こんな光景も、星幽塔ならではですね。
「す、すごいですねメリィちゃん！」
「うんうん！　ぴっかぴかだー！　きれーだなぁ」
　ふたりはフォルカのため、お相手のアイン・マクブライドを素行調査すべく、この仮面舞踏会への潜入を敢行しました。
　仮面舞踏会というからには、ふたりもピシッと素敵なマスクを身に着け、ばっちり着飾っております。
「ふふふ、どうですかこの仮面？　舞踏会なんて初めてですから、気合を入れて選んじゃいました！」
「うん、いい感じの仮面だー！　あたしはどう？　かっこいい感じのを選んでみたんだ～、どうどう？」
「メリィちゃんの仮面も素敵ですね♪」
　お互い顔は見えないけれど、に～んまり！　雅やかで華やかな舞踏会に、楽しくなってきてしまいました。
　しかしながら今回は、遊びに来たわけではないのです。
「ところでさー。ソコーチョーサ？　ってなに？　調べるの？」
「そうですね……あっ！　メリィちゃん、あっちにお料理がいっぱいありますよ！　食べ放題に飲み放題ですって！」
「うそー！？　うわぁ、どれもこれもおいしそー！」
「メリィちゃん、まずは食べながら作戦会議、ってどうですか？」
「さんせー♪　腹が減ってはイクサはできぬ、って言うもんね！」
　……遊びに来たわけではないのです！　調査の一環です！
　お肉をぱくり。お魚をぱくり。お野菜もちゃあんと食べて、スイーツをぱくぱくり！
「あっリリエル、あれ！　あれすごいよ、いってみよー！」
「わぁ、チョコレートファウンテン……！　私、一度食べてみたかったんです！」
　オトメのあこがれ？　チョコの噴水にイチゴをくぐらせて、ぱくり、ぱくん！
　んんんんん！

「「美味しい～～～！！」」
　甘い！　あまーい！　と喜んでいたら、
「天にも昇る甘さです～！」
「って、リリエル？　なんか透けてるよ？」
「あれれ、メリィちゃんも透けてますよ……って、なんだかふわふわしてます？」
　ふわふわ、ぷかり。チョコを味わった直後、ふたりの身体はスケスケのフワフワに！　なんとふたりは、ゴーストの仲間入りをしてしまったようです。あまりの美味しさにうっかり昇天……！？
　とはいえ、ここは星幽塔。きっとお料理にも不思議な力が働いていたりするのでしょう。ふたりは慌てず騒がず、
「はっ、メリィちゃん！　これはチャンスかもしれませんよ！　フワフワのゴーストなら、お相手さんに気づかれずこっそり素行調査できるかも！」
「おーっ、なるほどー！　確かにスケスケなら、いつもはできないことだってできちゃうね！」
　不意のゴースト化を有効利用することにしました。フワスケでアイン・マクブライドへ接近し、彼の人となりを調査するのです！
「よーっし、やったろー！」
「はいっ！　がんばリリエルです♪」



　水上 桜は思いました。
　ああ、今回の夢はまだマシね。
「いつもフツウに翻弄されるばかりだものね。たまにはこんな優雅な夢も、いいんじゃない？」
　いまだに星幽塔での出来事を夢まぼろしだと思い込んだままな桜。そんな純粋さや無防備にはちょっぴり彼女の将来が心配になってしまいますけれど、まー寝子島での理不尽神魂現象に巻き込まれて、まああああたフツウかあああああッ！！　などと荒ぶり神経をすり減らすよりは良いかもしれませんね。
　そんなわけで、淡いピンクの愛らしいドレスと似合いの仮面を身に着けた桜は、舞踏会へしゃなりとしなやかな仕草で分け入ります。
「ダンスは得意じゃないんだけど……まあ、なんとかなるわよね」
　夢とはいえ、目的あらばきっちりやり切るのが桜です。
　今回は、夢の世界での友人、狐のフォルカのたっての頼みで、求婚のお相手とやらを桜の厳しい目でチェックしてやるのです。
「……フォルカの気持ち、分かるしね」
　ふう、と憂いを帯びたため息をひとつ。
　ほわほわほわん、脳裏に蘇る思い出……中学二年生の頃の苦い初恋が、桜の胸を今でも締め付けます。
　とっても、とっても好きだったのに。
「今思い出しても、初デートで寄生虫館はないわ……」

トオイメ
　悪いヤツじゃあなかったけれど、両想いだったのは嬉しかったけれど、彼のマニアックな趣味にはどうしても共感ならず、経験した別れ。
　胸の痛みに、桜はフッ、と自虐の笑みを浮かべました。
「外見だけじゃ、どんなヤツかは分からないもんね。付き合ってから本性現して、とんでもない目に遭っちゃうかもしれないし」
　フォルカには、同じ思いをしてほしくない。そう思います。
　だから、
「っと、いたいた」
　優雅にステップを踏む仮面の紳士やご婦人方をかきわけ、接近します。
「さて……ごきげんよう、アイン・マクブライドさま。わたくしとも踊ってくださらないかしら？」
　ふわり、一礼。
　ひときわ目を惹く、なんとも美しい白銀の毛並みを持つ狼の獣人が、桜へおじぎを返しました。
「これは、美しいお嬢さん。私でよろしければもちろん、お相手させていただきます」