悲しい銃弾｜リアクション

悲しい銃弾

　思い詰めた顔で志波武道は方々を見て歩く。髪は汗で濡れていた。着ていたコートを脱いでモスグリーンのシャツの袖を捲る。
「早くしないと」
　息が上がってきた。適当な店舗の壁にもたれた。休む間を惜しむようにスマートフォンを起動させた。ねこったーに寄せられた情報を流れるような速さで見ていく。
　その中の一文に目が留まる。黒いパーカー姿の犯人が旧市街に現れた。思い出せという言葉のあと、エアガンで撃たれると過去の痛みが蘇る。そのような内容が端的に書かれていた。
「もう被害が……」
　得られた情報の喜びよりも悲しみが勝る。武道は切羽詰まった顔で旧市街に向かった。
「……ろっこんなのか」
　表情が陰る。軽く頭を振って前を見る。
　速足は何時しか、駆け足となった。

　薄暗い道を自動販売機が白く照らす。武道の目は吸い寄せられ、ふらふらとした足取りで立ち寄った。
　缶コーヒーに目がいく。ポケットの中の小銭を探していると、思い出せ、と声が聞こえた。手にしたコートを盾にしようとした。
「子供なのか！？」
　小柄な黒いパーカー姿に驚き、動きが遅れた。そこを狙われた。一発の銃弾を胸に受けた。
「ガッ、アアアッ！」
　とても立っていられない。武道は苦悶の表情で倒れ込み、叫び声を上げながら路上を転げ回った。
「そ、そんな」
　あまりに激しい反応に相手は明らかに怯んだ。
「やっと見つけたわ！」
　相手を目にした途端、抑えていた感情が爆発した。Maliceは灰色のコートを激しくはためかせて駆け寄る。
　舌打ちした相手はスマートフォンを取り出して耳に当てた。逃げながら電話をして路地に飛び込んだ。やや遅れてMaliceが駆け込む。
　倒れていた武道は上体を起こした。息を整えて立ち上がる。二人のあとを追うように路地に入り込む。
　蹴り倒されたバケツが至るところに転がっていた。強引に直進すると少し足を滑らせた。横手の壁に右腕を伸ばして支えた。怒りを滲ませた表情で左の拳を固める。

「俺が絶対に、何とかしてやるからな」
　路地を抜けた先は三叉路になっていた。二人の姿が見えない。武道の判断は早かった。スマートフォンを使って情報を求める。
「なんだ、これは？」
　ねこったーに奇妙な一文を見つけた。
『お前達の正体を知っている。おかしな能力のことも。ばらされて人生を滅茶苦茶にされたくなければ会いに来い』
　強い命令口調の後に旧市街の空き地が示されていた。
　考える間もなく、武道は示された場所へと急いだ。

このページにイラストを設定する