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シネマカフェ『クランク・イン』 第四幕
【ぷしゅー！ と息抜き】
激務から一時逃れ、星山 真遠はふらりとシーサイドタウンを歩きます。
（はあ。やっとひと段落だな……）
真遠の肩書きは、司法書士兼行政書士。個人や企業が公的書類を官公庁へ提出する際の書類作成や手続き等を代行する……とまあ、いかにも脳みそを酷使する専門的なオシゴトであります。
たたでさえ頭を使い気を使う仕事に加え、年末のこの時期の仕事量ときたらもはや殺人的で、気が狂わんばかり。本日もまた得意先のお客様に呼び出され、あれやこれやと相談を詰めた後、ようやく解放されたところなのでした。
（忙しすぎる。これは、春先まではシナリオも出せないな）
副業としてやっているＰＢＷのマスター業務も、しばしの休業中。シナリオでプレイヤーのみんなの大活躍を面白おかしく、楽しく執筆できるのもずいぶんと先のことになってしまいそうです。
（……まあ不人気マスターだし、シナリオ出したところで定員は埋まらないけどな！）
などと自虐しつつも、その時を楽しみにすることで、なんだかんだと本業をこなす活力も湧いてくるというものかもしれません。
さて、そんなお仕事も今日はめでたく終了！ あとは事務所に戻るだけ……なのですけれど、
（少し休憩していくか。昼飯すら食べてないしな……ふむ）
そこではたと目に付いたのが、シネマカフェ『クランク・イン』でありました。
（映画の一本くらい、見てもいいよな？）
そんなわけで。
「ハンバーガーとフライドポテト、お待たせいたしましたー！」
「ああ、ありがとう」
ハーフかクォーターでしょうか、どこか西欧の趣きを感じる女の子が浮かべたふにゃっと無防備な笑顔に、真遠は胸の中に凝り固まったガチガチの緊張がほんわか、解けていくように感じました。
店員さんは、壁に掲げられた大きなスクリーンへと手のひらをかざしまして、
「まもなく、『超脱走』が上映開始となります。ご覧になったこと、ありますか？」
「いや、初めてだよ」
「むふー。名作ですから、きっとお気に召しますわよ♪」
にーっこり。
やがて店内の照明が落とされ、スピーカーから流れ出すのは軽やかかつ勇壮な、『超脱走マーチ』です。誰しも一度は聞いたことがあることでしょう。
真遠はハンバーガーをかぷりと頬張り、
（お……美味いじゃないか）
そこらのファーストフード店よりもワンランク上、なかなか本格的なグルメバーガーといったお味です。これはもー絶品と呼んで差し支えないんじゃあないでしょうか！
フライドポテトをつまむ手も進みつつ、真遠はスクリーンで展開される脱走劇へとのめり込んでいきました。
『超脱走』は、第二次大戦下のヨーロッパにて、脱出不可能と言われた捕虜収容所へ囚われた連合軍捕虜たちが計画した集団脱走の一部始終を描く物語です。
戦争映画、と言えば確かにそうです。けれどこの映画にはドンパチと派手な銃撃戦があるわけではありません。収容所内での捕虜たちと兵隊たちとの知略的攻防、何度も逆境へ追い込まれつつも諦めない捕虜たちの不屈の精神を描き出す、濃密なヒューマンドラマなのです。
（まず、面構えからして違うんだよな……）
登場するのはいずれ劣らぬ、屈強なオス猫たち。多くはイギリス兵で、主人公的立場であるアメリカ兵捕虜のオスが中心となり、物語は進みます。
脱走は一匹の力では成し得ず、猫たちはそれぞれに役割を担います。例えば収容所内の兵隊の動向を集める『情報屋』。トンネルを掘る『掘削屋』。脱出後の平服などを用意する『仕立て屋』に、トンネルの距離を測る『測量屋』。身分証を偽造する『偽造屋』……各々が役割を果たすことで、脱走計画は着々と進んでゆくのです。
（このへんは、現代の実生活も同じだよな）
真遠もまた司法書士や行政書士として、社会の一画を担っています。真遠が役割を果たすことで誰かの仕事や生活が円滑となり、その誰かの仕事が真遠の毎日を支えているのです。
……などと考えると、真遠の収容所の猫たちへの感情移入はより深まりました。
（徹頭徹尾、頭脳と駆け引き。不屈の精神。彼らの気概……）
自分もこんなふうに生きられたらな、と真遠は思います。
（けど、ヘタレだもんなあ。俺）
そして苦笑いしました。
映画の登場人物たちはあんなにも威風堂々、真っすぐで退くことなく、自分を貫き通します。もちろんそうではないキャラクターだっておりますけれど、やはり目に留まるのはそうした輝かしい活躍ばかりです。
それに映画を見ていると、いつしかそんなキャラクターたちと同化して、なんだか自分が強くなったような気分にもなってきます。
失敗しても、叩きのめされても、決して折れない不屈の心。
（……憧れる、よな）
「ありがとうございましたー！ いかがでした？ 『超脱走』」
行きも帰りも変わらない、店員さんのにっこり笑顔。
真遠も思わず口元が緩んで、
「ああ。良かったよ」
「ですよねー！ むふふー。これからも素敵な映画をたーーーっくさん上映していきますので、また来てくださいね♪」
まーぶっちゃけ言いまして、映画の一本で人生が変わるなんてことは稀です。
けれど少なくとも今、事務所へ向かって歩む真遠の足取りは、弾むような軽さでありました。
激務から一時逃れ、星山 真遠はふらりとシーサイドタウンを歩きます。
（はあ。やっとひと段落だな……）
真遠の肩書きは、司法書士兼行政書士。個人や企業が公的書類を官公庁へ提出する際の書類作成や手続き等を代行する……とまあ、いかにも脳みそを酷使する専門的なオシゴトであります。
たたでさえ頭を使い気を使う仕事に加え、年末のこの時期の仕事量ときたらもはや殺人的で、気が狂わんばかり。本日もまた得意先のお客様に呼び出され、あれやこれやと相談を詰めた後、ようやく解放されたところなのでした。
（忙しすぎる。これは、春先まではシナリオも出せないな）
副業としてやっているＰＢＷのマスター業務も、しばしの休業中。シナリオでプレイヤーのみんなの大活躍を面白おかしく、楽しく執筆できるのもずいぶんと先のことになってしまいそうです。
（……まあ不人気マスターだし、シナリオ出したところで定員は埋まらないけどな！）
などと自虐しつつも、その時を楽しみにすることで、なんだかんだと本業をこなす活力も湧いてくるというものかもしれません。
さて、そんなお仕事も今日はめでたく終了！ あとは事務所に戻るだけ……なのですけれど、
（少し休憩していくか。昼飯すら食べてないしな……ふむ）
そこではたと目に付いたのが、シネマカフェ『クランク・イン』でありました。
（映画の一本くらい、見てもいいよな？）
そんなわけで。
「ハンバーガーとフライドポテト、お待たせいたしましたー！」
「ああ、ありがとう」
ハーフかクォーターでしょうか、どこか西欧の趣きを感じる女の子が浮かべたふにゃっと無防備な笑顔に、真遠は胸の中に凝り固まったガチガチの緊張がほんわか、解けていくように感じました。
店員さんは、壁に掲げられた大きなスクリーンへと手のひらをかざしまして、
「まもなく、『超脱走』が上映開始となります。ご覧になったこと、ありますか？」
「いや、初めてだよ」
「むふー。名作ですから、きっとお気に召しますわよ♪」
にーっこり。
やがて店内の照明が落とされ、スピーカーから流れ出すのは軽やかかつ勇壮な、『超脱走マーチ』です。誰しも一度は聞いたことがあることでしょう。
真遠はハンバーガーをかぷりと頬張り、
（お……美味いじゃないか）
そこらのファーストフード店よりもワンランク上、なかなか本格的なグルメバーガーといったお味です。これはもー絶品と呼んで差し支えないんじゃあないでしょうか！
フライドポテトをつまむ手も進みつつ、真遠はスクリーンで展開される脱走劇へとのめり込んでいきました。
『超脱走』は、第二次大戦下のヨーロッパにて、脱出不可能と言われた捕虜収容所へ囚われた連合軍捕虜たちが計画した集団脱走の一部始終を描く物語です。
戦争映画、と言えば確かにそうです。けれどこの映画にはドンパチと派手な銃撃戦があるわけではありません。収容所内での捕虜たちと兵隊たちとの知略的攻防、何度も逆境へ追い込まれつつも諦めない捕虜たちの不屈の精神を描き出す、濃密なヒューマンドラマなのです。
（まず、面構えからして違うんだよな……）
登場するのはいずれ劣らぬ、屈強なオス猫たち。多くはイギリス兵で、主人公的立場であるアメリカ兵捕虜のオスが中心となり、物語は進みます。
脱走は一匹の力では成し得ず、猫たちはそれぞれに役割を担います。例えば収容所内の兵隊の動向を集める『情報屋』。トンネルを掘る『掘削屋』。脱出後の平服などを用意する『仕立て屋』に、トンネルの距離を測る『測量屋』。身分証を偽造する『偽造屋』……各々が役割を果たすことで、脱走計画は着々と進んでゆくのです。
（このへんは、現代の実生活も同じだよな）
真遠もまた司法書士や行政書士として、社会の一画を担っています。真遠が役割を果たすことで誰かの仕事や生活が円滑となり、その誰かの仕事が真遠の毎日を支えているのです。
……などと考えると、真遠の収容所の猫たちへの感情移入はより深まりました。
（徹頭徹尾、頭脳と駆け引き。不屈の精神。彼らの気概……）
自分もこんなふうに生きられたらな、と真遠は思います。
（けど、ヘタレだもんなあ。俺）
そして苦笑いしました。
映画の登場人物たちはあんなにも威風堂々、真っすぐで退くことなく、自分を貫き通します。もちろんそうではないキャラクターだっておりますけれど、やはり目に留まるのはそうした輝かしい活躍ばかりです。
それに映画を見ていると、いつしかそんなキャラクターたちと同化して、なんだか自分が強くなったような気分にもなってきます。
失敗しても、叩きのめされても、決して折れない不屈の心。
（……憧れる、よな）
「ありがとうございましたー！ いかがでした？ 『超脱走』」
行きも帰りも変わらない、店員さんのにっこり笑顔。
真遠も思わず口元が緩んで、
「ああ。良かったよ」
「ですよねー！ むふふー。これからも素敵な映画をたーーーっくさん上映していきますので、また来てくださいね♪」
まーぶっちゃけ言いまして、映画の一本で人生が変わるなんてことは稀です。
けれど少なくとも今、事務所へ向かって歩む真遠の足取りは、弾むような軽さでありました。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2020年03月11日
- 参加申し込みの期限
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- 2020年03月18日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2020年03月18日 11時00分
