【球技大会】クラス対抗、冬の陣！｜リアクション

【球技大会】クラス対抗、冬の陣！

◆先輩、後輩、キャッチボール

　放課後の校舎裏には、野球やソフトボールの自主練をする生徒が数多くいた。
　他校ほど上下関係に厳しくはない寝子高だが、グラウンドは学年ごとに練習に使える割り当て時間がある。今は三年生がグラウンドを使っているので、一、二年生は校舎裏の周りに集いがちだ。

「クラス対抗でよかったぜ、猫組とか聞くと不肖の姉を思いだすしな……」

　野球に参加することになった１年１０組の響蒼留人は苦笑いする。
　剣道部なので球技は専門じゃないが、体育科の矜持に掛けて、この球技大会、そう簡単には負けられない。

「野球部なあいつに笑われないよう本気を見せてやる！」

　寮のルームメイトで、かつ、クラスメイトでもある男子の顔が脳裏を過ぎる。
　勝手にライバルというやつだ。

「球技大会までは竹刀をバットに持ち替えて頑張るぞ。……ハッ！　せいッ！」

　真剣な眼差しで素振りを始めれば、シュッ、シュッと、空を切る鋭い音が鳴る。
　音だけ聞けば、いい素振りをしているようだが……。

「えーっとぉ、それ、剣道の素振りだよね？」

　通りかかった万条幸次が指摘したとおり。

「え？　あっ……！」

　蒼留人はカアッと顔を赤らめた。
　うっかり真上から振り下ろしていた。真剣だったから余計に恥ずかしい！
　しかも、相手は先輩じゃないか。
　取り繕うように敬語になって、話題を変える。

「あっ、もしかしてキャッチボールの練習相手を探してますか？　俺もちょうど守備練習したいと思っててっ。よかったら相手してもらえませんか？」
「え、いいの？　俺、運動も苦手だし、野球も授業でちょっとしかやったことないんだけど……」
「俺も球技は専門じゃないです。バットで剣道の素振りをしちゃったくらいなんで」
　
　それを聞くと、幸次は安心した猫みたいに、目を細めてふにゃと笑った。

「じゃあやろうかぁ」

　そんなわけで偶然出会ったふたりはキャッチボールの練習をはじめた。
　１年生と２年生だから、今年の球技大会のルールだと対戦相手にはならない。
　おかげで相手を敵と思わず、気楽に練習できる。

「自分がガンガン得点を稼ぐのは無理そうだから、せめて失点を抑える守備をきっちりしたくてさ。過去のプロ野球の試合も参考になるかと思って見たけど……普通にハラハラ楽しんで観戦して終わっちゃった。ボールの軌道を見極めてすぐ体勢を変えてキャッチするのはさすがプロ中のプロの技、参考にはならなかったね」

　おしゃべりしながら、幸次はゆるっとした球を投げる。

「それ、なんかわかります」
　
　蒼留人もだんだんリラックスして来た。
　キャッチしたボールを正面の取りやすそうな位置目掛けて投げ返すと、幸次が少し下がってキャッチする。

「プロみたいには出来ないけど、球が取れると嬉しいねぇ」
「本番は容赦ないと思うんで、もうちょっと強い球でも練習しましょう、先輩」
「いいねぇ。キャッチボールのあとは、バッティング練習もしない？」
「やります。ちゃんと横に振って球に当てる練習、やりたいんで」

　最初こそ恥ずかしかったけれど、よい練習相手に巡り合えたのだから結果オーライだ。
　ふたりは声をあげて笑いあった。

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