彷徨える寝子原人｜リアクション

彷徨える寝子原人

９.彷徨える寝子原人

　鍾乳洞組がループ地帯から引き返し、別のルートから進んだ先。そこは吹き抜けの形状の大部屋になっていた。
　「上にも通路が見えるねー」
　五月がライトで照らしながら呟く。多層構造になった道はまるでゲームのダンジョンのようでもあった。
　「おー、合流なのだー？　真央ちゃんジャーンプ！」
　ライトの明かりに気付いた真央が上層から飛び降り、着地する。３メートル程度とはいえ足場の悪いところへ躊躇いなく飛び降りるのは中々剛毅だと言えた。
　「百点満点なのだ」
　怪我もなく着地をした真央が鍾乳洞組に笑顔を見せる。
　「そっか……合流することもあるんだよね」
　突然の真央の登場に驚きつつも、納得したように日向が頷く。
　「そっちに原人はいたー？」
　寿美礼が真央に期待の眼差しを向けるながら訊ねる。
　「出会っていないのだ、蝙蝠ならいたのだ」
　真央は首を振る。

　「あらー、合流しちゃいましたか」
　崩落ルートからたどり着いたと思しき、梢たちが別の経路から顔を出す。
　「大所帯ね」
　エヴァがつなぎの襟元を少し開き、扇子を広げて扇ぐ。扇には『泰然自若』と書かれていた。
　「寝子原人には会えた？」
　鍾乳洞組や真央に月乃が訊ねる。やはり原人がみんな気になるようだった。

　「せっかくですし、ここは休憩しましょう！」
　下心が真面目な顔で提案する。下心の真意はともかく、その提案に反対するものはいなかった。

　小休止ついでに互いの情報交換をする面々。

　「真央ちゃんもマッピングしておいてくださったら、シルベの地図と合体できたのですがっ」
　「真央ちゃんは突撃スタイルなのだ」
　地図の確認や纏めを行うシルベや真央。
　「洞窟探索において問題となるのは長時間の探索における、補給の問題。また、想定外の事故などの可能性を考慮すれば出来うる限り時間をかけて進むことが望ましい、か」
　「とはいえ、洞窟内でキャンプを行うような事態は避けたいんだよな」
　これまでの探索の反省点などを文章として記述する士。豪とも何やら話し合っている。

　「苦灰岩、方解石……。典型的な石灰岩地帯か」
　「おや、グローワームです。ヒカリキノコバエですかね？」
　鍾乳洞内の成分調査や生物調査を行う修と梢。

　「飴玉、いかがですか？」　
　「わ、苺味！　ありがとう！」
　蓮から好物の苺味の飴玉を受け取り喜ぶ月乃。

　穏やかな雰囲気が場を支配していた。
　洞窟探検の参加者の大半が集まり、探索開始して長時間が過ぎたというのもやはりそういった雰囲気になった原因だろう。

　「横嶋はそこで正座しておくように」
　スケッチブックを取り出し、ライトの明かりのみで何かを描いている月詠が下心に冷たく言い放つ。
　「せ、せめて衣擦れの音だけでも！」
　下心が懇願するような声を上げつつも素直に正座する。

　休憩の間に一部の参加者は汗を拭ったり、アンダーウェアを着替えたりするものもいたのだ。
　下心の提案はそういった可能性を考えてのことだったのかもしれない。
　それを察した月詠が機先を制し、下心を御したわけである。

　暫くして。

　「من فضلك لا تأتي」

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