うみねこで鍋を｜リアクション

うみねこで鍋を

●久しぶりに会う親友同士

　気が付けばもう12月。駆け足のように時が過ぎてゆく。
　あと何日かすれば深倉理紗子は29歳──20代最後の1年を迎えることに。
「今年も色々なことがあったわね」
　その中でも、特に中学以来の親友である深林真瞭との間でいろいろあった。
　理紗子は過労で倒れ、真瞭は内紛が起きた楽団内での己の状況が悪化の一途を辿ったことで楽団を退団。
　親友の理紗子が病気療養のため真瞭が住んでいる星ヶ丘のマンションで共に暮らすようになってから、２人の距離は近くなった。
　ほんのささいなすれ違いが、いつの間にか修復困難なほどの亀裂となり2人の前に。
　ハロウィンイベントで仲直りできたものの、それ以来、真瞭とは会っていない。
　今日は日曜日。急患などの呼び出しがない限り、ゆっくりと休める貴重な1日だ。
　ここのところ仕事で忙しいこともあり、ＳＮＳでのやり取りもなかなかできていなかった。
　久しぶりに──と言っても１ヶ月ほどだが、真瞭の声が聞きたくなったのでスマホで電話をかけた。

「今年は色々あったわ。最大の事件は……長年世話になっていた交響楽団を退団したことかしら」
　退団してから真瞭は暫くソリストで活動してからは、早速、いくつかの仕事のオファーが舞い込んでいる。
　寝子島での拠点である星ヶ丘の高級マンションで練習をし、休憩をとっていたところでスマホが鳴る。
「この着メロは……りさちん」
　理紗子同様ハロウィン以来会っていないので、久しぶりに声が聞きたかった。
　なので、ちょうど良いタイミングだったのかもしれない。
『久しぶり、まーちゃん。今、話しても大丈夫？』
『大丈夫よ、りさちん』
　互いの声を聞き、少し安心する２人は、久しぶりに会おうという話になった。
『良かったら、寝子島漁港に行ってみない？』
　広い海を見て、心を落ち着かせるのもいいわねと思った真瞭は『いいわよ』と答えた。

　それから数10分後。2人は待ち合わせ場所の寝子島漁港近くで会った。
　久しぶりに見る親友の顔を見合わせ、まずは何て言おうと互いに考える。
「落ち着いているようで安心したわ、まーちゃん。なんとなく海を見たかったから誘ったんだけど……」
「私も海を見たいと思っていたから。りさちんも落ち着いてきているようね」
　顔色も良さそうだし、と理紗子の体調を気遣う真瞭。
　その後は寝子島漁港をぶらついたり、海を見ながら話をしたり。
　競りを見てたいと真瞭が言うので行ってみたが、残念ながら既に終わっていたので市場を見て回った。
　実際に競りを見る時は早起きしないと駄目なのかしら？　と思う真瞭に「そうかもしれないわね」と理紗子は視線を合わせてそう言った。
　市場には魚や野菜、果物等いろいろあった。それを見るだけでも来て良かったと思う2人だった。

　しばらく適当に話をしているうちに、なんだかお腹が空いてきた。
　適当な店で何か食べよう、ということになったので、どこかにお店はないかと２人は探し始めた。
「りさちん、あのお店に入ってみない？」
　真瞭が指を差した方向を見ると、そこには大衆食堂『うみねこ』があった。
「初めて行くお店ね。まーちゃんは行ったことある？」
「私も初めてよ」
　初めてのお店でご飯を食べるのもいいかも。ということで2人は『うみねこ』でご飯を食べることにした。

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