うみねこで鍋を｜リアクション

うみねこで鍋を

●鍋を食べてスッキリ気分に

　定時で役場の仕事を終えて、冬物のコートをなびかせつつ三折部朝衣が向かう先は『うみねこ』。
　彼女自身は子供の頃から家族と食事に来ているので、魚戸夫妻とは長い付き合いだ。
　朝衣が『うみねこ』に来たのは、職場である寝子島町役場総務課の忘年会の予約をしに。
（仕事納めの日に行うので少し早めな気がするが、今の状況だとむしろ遅いくらいかな？）
　とりあえず15人分の予約をしておこう、と考えながら歩く。
　『うみねこ』に着くと、ハルコに職場の忘年会の予約をしたいと申し出た。
　断られたらどうしようかと不安だったが、仕事納めの日の夕方から店を貸し切りにできるというケンゾウの返事に一安心。
「ありがとう、ケンゾウさん。仕事納めの日、楽しみにしているわ」
「料理は鍋でいいか？　大勢で食うなら、それがいいだろう」
「じゃあ、お鍋でお願い。あとお酒とかも」
　忘年会ができるから助かったわ、と安心した朝衣は、なんだかお腹が空いてきた。
　今日は残業はなかったが、その代わり朝7時から早出。年末年始のこの季節、各種手続きで猫の手も借りたいほどの忙しさだ。
（明日はきっと残業ね）
　そう思うと、ちょっと気分が重い。
　仕事は忙しいが、この前、ボーナスが支給された。
　高卒地方公務員2年目の彼女の冬のボーナスは45万円。（結構な額だと思うか、少ないと思うかは人による）
　ボーナスの使い道をどうするかはこれから考えることに。
　それよりもモヤモヤしてきたのは、付き合っている恋人のこと。
　一応クリスマスデートの約束は取り付けているが、ここ最近、なかなか会えない。
　モヤモヤしてきたらお腹が減ってきた。
（こういう時は、美味しいものを食べるに限るわ）
　ちょうどいい、と『うみねこ』で夕食を食べることにした。
　メニューを見ると、いろんな種類の鍋があった。
「寄せ鍋も美味しそうだけど、水炊きもいいわね。鶏団子鍋も美味しそう」
　どれにしようか迷ったが、水炊きを注文することに。
「すいませーん、注文お願いします」
「はーい、ただいま」
　注文を聞きに来た楡宮遠海に、朝衣は水炊きとビールを注文した。
「シメはどうしますか？」
「シメもあるの？」
「はい。雑炊かうどんです」
「シメは雑炊かうどんか……」
　どちらにしようか悩んだが、うどんにすることに決めた。

　遠海が運んできた1人分の鍋を見て、こんな感じで運ばれてくるのねと朝衣は感心した。
　量は多すぎず、少なすぎずのちょうどいいボリューム感。
　食材が鍋に入っているので、固形燃料が燃え尽きるまで温かい鍋が食べられる。
　煮えてきたところでアクを掬い、さっそく鶏肉を一口。
「あー美味しい。美味しい鍋は極楽よね。ビールも美味しいわ」
　仕事が終わった後なので気分がいい。
　上機嫌の朝衣が鍋をよく見ると、中に牡蠣が入っていた。
「おばちゃん、鍋に牡蠣が入っているんだけど」
「ああ、それかい？」
　他のお客さんに聞こえないよう、ハルコが小声で父ちゃんが入れたんだよ、うちで忘年会をしてくれる礼だってと言う。
「いいの？」
　父ちゃんの気持ち、受け取っておくれというハルコに朝衣は牡蠣をありがたくいただくことに。
「他のお客さんには内緒だよ」
「ありがとう、おばちゃん」

　水炊きが食べ終わったところで、シメのうどんをいただくことに。
　うどんが煮えてきたので、さっそく一口。
「水炊きも美味しいけど、しみ込んだスープのうどんも美味しいわ」
　鍋を食べながらのビールも美味しかったし、シメのうどんも美味しかった。おまけの牡蠣も美味しかった。
　これで明日の仕事も頑張れそう、と朝衣はお金を支払って『うみねこ』を出た。

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