欲望の果てに望むものは｜リアクション

欲望の果てに望むものは

【黒崎俊介】
　パラソルの下、ビーチチェアに寝そべっているのは通常何となく影が薄い黒崎俊介だ。
　しかし本日の俊介は少々違う。醸し出す包容力。その大人な雰囲気に周囲の女子はメロメロだ。アフタヌーンティーに滴り落ちる汗すら美しい。

　つながりたい＆愛し合いたい欲望で寝子ヶ浜海岸はかなりのイチャイチャムードだ。そんな開放的な空間を手を繋いで歩くのは恵御納久隆と恵御納理沙夫妻だ。
（なんだ、この気持ちは……妻と睦まじくしていないと狂いそうだ）
　久隆はそのいかつい眉を顰めた。隣には理沙の水着姿。その白い素肌が眩しくて、こう、もっと色々……。
（いかんいかん！）
　久隆は暴走する欲望をふるい落とすように頭を振った。何を考えているんだ私は。こんな欲望に負ける訳にはいかん。公共の場でもあるのだから、手を繋ぐだけで何とか凌がなくては。……ああ、しかし。
　久隆は全然足りないというように理沙の華奢な手を強く握る。

（はぁ……旦那様の水着姿素敵）
　手を繋ぎながら理沙はうっとりと隣の久隆を見上げた。分厚い胸板、太い首。誰が見ても鍛え上げられた体だという事が分かる。
　旦那様に触れたい。もっといちゃいちゃしたい。その欲望を理沙は何とか抑えていた。だって旦那様もきっと我慢しているもの！
　だから今は私も手繋ぎで我慢。でもついついそのがっしりした腕に寄り添ってしまうのは、許してね？

　こんな風に仲睦まじく浜辺を歩く夫妻だが、そもそもここにいる目的があった。
「で、誰が怪しいんだ？　理沙」
「ええっと、ミラちゃんが言うには4人いるらしいんだけど……」
　そう、２人は寝子島の危機に立ち向かうために寝子ヶ浜海岸に来ていたのだ。ミラの声が聞こえない久隆は、理沙に事情を聞いて理解していた。
「4人か……尻尾を掴む為、誰に……」
　真剣に悩む久隆だが、理沙は少し別な事を考えていた。
（旦那様が女性に関係するのは、何か嫌。じぇらしー！　してしまいそうだわ）
　ましてやその怪しい女性が超グラマーときたら。理沙はくいっと久隆の手を引っ張って言った。
「とにかく、男性！　男性を何とかしましょう。いいわよね、旦那様……いいわよね？」
「……あ、ああ、わかった」
　いや、実は久隆、理沙が強く言う訳は分からなかったのだが、その勢いにこくこくと頷いた。

「あ、あそこ見て、旦那様！　怪しいって言われている人の１人がいるわ」
　ターゲットを探して浜辺をきょろきょろしていた理沙だったが、俊介を見つけると指さした。
「えーと、確か黒…………なんて名前だったかしら。前はあんな目立っていなかったはず。すごく怪しいわ！」
　確かに彼の周りには女性達が遠巻きにきゃっきゃ言っており、目立ちまくりだ。理沙はうん！　と両拳を握った。
「私、ちょっと行ってきますね、旦那様！」
　言うが早いがぴゅんと久隆の隣から離れてしまった理沙。呆然と久隆が見守る中、理沙はしれっと俊介に近付いた。
「きゃー！　包容力ありそうな黒髪お兄さん、とっても素敵ー！」
　俊介は特に驚きもせず、「ありがとう」と言いながらキザに髪を掻き上げる。その白い腕に理沙はドキリとした。
（え、うそ、欲望が……他の人相手なのに？）
　綺麗な肌、程よくしまった筋肉……久隆とは全く違うタイプなのだが、とても触れてみたいのだ。
「どうしました……？　とりあえず、僕の横に座ったら」
　俊介は気怠く起き上がり、にこやかにチェアを勧める。きっとそこに座ったら肌が密着してしまうだろう。
「え、えーと……」
（……どうなっているの、抗えない！　助けて旦那様ー！？）
　理性は警報が鳴りっぱなしなのだが、欲望がそれに蓋をする。
「さあ……」
　俊介の柔らかなヴォイスに魅入られたように、理沙は出された手を取る。その時だった。
「……やぁ、うちの家内に何か用かね？」
　理沙の手は、久隆のがっしりした手に取り戻されていた。