「それは、月にいる絶神の姿を映し出す鏡だったよね」
手鏡と言うには大きく、重そうで、背面には不死鳥の文様が描かれている骨董品。
いわゆる銅鏡かと思われるものを
サキリ・デイジーカッターは目にしていた。
目の前にいるのは鏡を抱えた
坂内 梨香。
「わざわざそれを持っているってことは、何かあった、と考えるのが妥当だろうね?」
サキリの問いかけに、梨香は神妙に頷いた。
その鏡は、通称
『天界の鏡』という。
月に封じられている
『絶神(たちがみ)』――ののこの影から生まれたオオカミの姿をした邪悪な存在――の姿を映し出すという不思議な鏡だ。
過去へまで及ぶ冒険の末に託されたこの鏡は、入手以来、梨香が預かっていた。
「異変はないかと毎日確認するようにしているの」
梨香はドアをノックするように鏡面をコンコンと叩いてサキリに手渡す。
「何か見えていた?」
「ええ。月のクレーターに沈み込むオオカミ、つまり絶神の姿がね。ただ……」
「
昨日まであったものが今日ない、というのはマズいのよね」
「どういうことだい?」
「見てもらった方が早いわ」
サキリは首をかしげながら、じっと見つめる。
「鏡よ鏡、映したまえ。この世で一番……醜いものを」
「茶化さないでしっかり念じて見てみて」
「……」
濁った鏡面に、オオカミの姿が映し出される。絶神だ。毛色は漆黒。横向きに倒れ、牙の生えた口を高笑いするかの如く大きく開けたまま瞬間冷凍されたかのようにクレーターに半身をうずめている。
ぞわわわわ……と強烈な寒気が襲う。
それが12月の寒風のせいでないことはサキリにはすぐにわかった。
「よく見て。シッポ、ある?」
「シッポ? シッポはない。……ない、だと?」
体の半分が埋もれたオオカミのシッポの切れた姿を見つめるサキリの目。血管が浮き出て紅くなっていく。
「そう、ないのよ、シッポ」
その瞬間、ぎょろりとした狼の目がこちらを”見て”にんまりと嗤った。
「!!」
危険を感じ鏡から目を逸らす。
サキリは肩で息をしながら核心に触れた。
「まさか……月の封印が解けかけて……?」
梨香が静かに、しかし何度も頷く。
今はもう誰ものぞいていない『天界の鏡』が、ガタガタと小刻みに揺れる。
「何!?」
「おいおい……」
サキリは周囲を見回す。
背後の木からサッと飛び下りてくるのは、白猫の
ミラ。
塀の上を颯爽と駆けてくるのは、灰猫の
テオ。
異変を感じ鏡にもう一度目を向ける。
鏡面から大きくてふさふさした立派なシッポが生えてきている!
サキリは咄嗟にナイフを振るう。
サキリに斬られた絶神のシッポの毛先が数本、ハラハラと落ちる。
テオは猫パンチも繰り出し、ミラも時空の操作を図ったが、絶神の大きなシッポは消え失せてしまった。
ミラは無数に分身して攻撃をかわしたようだが、同時に無数に複製された『天界の鏡』とともに地面に転がされた。
『まだです、鏡にはシッポが映ってます!』
しかし、絶神と衝突し倒れたテオの毛色は暗黒に染まっていく。
『世界は切り分けたが……やられた。俺は侵されちまったようだ』
どうやらここは、フツウだけどフツウではない寝子島
『欲望の世界』。
睡眠に
大食、
悪徳に
闘争、
陶酔、
忘却、
性愛、そして
反抗と様々な欲望が異常に強化されていく。
やがて人相ならぬ猫相がすっかり変わってしまったテオは、キラリと爪を光らせて笑みを浮かべた。
『ふっ。愚かな主導者は、いつの世も裏切られる運命にあるものだよなぁ』
テオが囚われたのは、「ののこを守るという使命」に
反抗する欲望のようだ。
テオはののこを目指して寝子高へと去り、分身したミラの一匹が追いかけていく。
残されたサキリは自分の中でナニカが変化していくことを感じつつ『天界の鏡』のひとつを拾うと、たしかに見た。
鏡に映ったシッポの残像を。
(絶神……)
追わなければ、とサキリは思った。捕まえなければ大変な事になる。
しかし、湧き上がるナニカが己の体を得も言われぬ欲望で満たしていく。
(絶神はどこへ)
最後の理性で鏡を見る。
そこには、先程まであったものが今なくなろうとしていた。
……サキリの網膜に焼き付いたのは、『サヨウナラ』と言うようにくるりとゆっくり1回転して、鏡からも消えてしまうシッポの姿だった。
ミラによると絶神の精神は既に寝子島にあり、誰かに扮しているらしい。
なんらかの方法で対峙すればシッポが現れ、自ずと絶神であることがわかるということだ。
ミラは、虚ろなサキリに懇願する。
『見つけてください、絶神がシッポを出す瞬間を!』
寝子島はどんよりと暗く、それでいて紫色がかった怪しい色味の空に覆われていた。
昨日まであったフツウの楽しい寝子島は、今はもう存在しないのだった。
こんにちは、KANです!
今回はなんとホワイトシナリオ セカンドシーズン第3話をお届けにあがりました。
サキリ・デイジーカッターさん、ガイド登場ありがとうございます!
もしご参加頂ける場合は、ガイドにかかわらず自由にアクションをかけて下さいね。
欲望に包まれてしまった寝子島。
―――あなたは何を望みますか?
あなたと寝子島の状況
ここは一見フツウのいつもの寝子島ですが、
ちょっとずつ人々の心が変わっている、欲望の世界。欲望の寝子島です。
あなたも、なにかしらの欲望の虜となってしまいます。
人によっては、人相や姿なども変化してしまっているかもしれません。
ほしびともこの世界に来ていて、星幽塔での姿のこともあれば、寝子島らしい姿のこともあります。
絶神は、寝子島のどこかに潜伏して、誰かに扮しています。
絶神を狙う者があれば、やられる前にやろうとしてくるかもしれません。どうかお気をつけて。
なんらかの方法でしっかり対峙すれば、シッポが現れ、自ずと絶神であることがわかります。
探し出して、そして対処しましょう。殺すのか、追い出すのか、シッポを封印の地(月)に戻すのか……。
ミラによって絶神のいそうな場所はわかっています。
そこで「抑えられない欲望」や「あやしい人」の情報も聞くことができます。
以下の【A~E】の中から1つだけ選んで、アクションの冒頭に記入してください。
どこも、今は大人も子どももほしびとも自由に出入りできます。
【A】ステッラ・デッラ・コリーナ
最高級ホテル。屋外ラウンジつきのレストランで立食パーティー。ピアノの生演奏に、ダンスタイムも。
絶神がいても、食事と飲み物に夢中になってしまいそう?
★抑えられない欲望 <大食と狂酔>
・食べまくりたい! 苦手なものでもへっちゃら。食べて食べて食べまくる!
・酔って乱れた~い! 子どもだってジュースで心地よく酔っ払い気分♪ イチャイチャしてよう♡
★あやしい人
・メイド風ウェイトレス:飲み物をトレイに載せてまわってます。オススメされると飲みたくなる。
・ふくよかコックさん:オープンキッチンで調理中。彼が作るものはなんでも食べたくなる。
・ツインテールのパティシエ:七夜あおいに酷似。おいしくないけど、つい食べてしまうケーキを配付中。
・久保田美和:失恋したはずだけど、酔っ払って忘れて浮かれてハッピー気分。元気いっぱい♪
【B】ねこ温泉
古き良き温泉街。とある旅館、小川に沿った遊歩道。魔の力か、ぽかぽか陽気でリラックス。
なんにも考えられなくなっちゃって、はたして絶神とまともに対峙できるかな?
★抑えられない欲望 <睡眠と忘却>
・休みたい、眠りたい ほんわかリラックスしたい。どこでも眠りたい。眠ったまま徘徊することも。
・忘れたい…… 難しいことは忘れてしまう。絶神なにそれ? 自分のことすら忘れることも。
★あやしい人
・旅館の女将さん:お疲れでしょう、とソファ、マッサージ、布団などを絶妙のタイミングで用意。
・看板みけねこ:いつも寝てて、簡単になでなでさせてくれる。なでなでするとこっちが眠くなる。
・ルーク・ポーラスター:大切な剣をどこかに忘れて、冒険心も薄れて、温泉でゆったり♪
・雨宮校長:欲望に抗う人に長い話をしてくる。同じ話をゆっくりループ。ほっほっほ。
【C】寝子ヶ浜海岸
不思議と「真夏」の太陽がきらめく妖艶なビーチ。水着姿で誰かとキャハハ♪
いちゃいちゃしながら絶神と戦えるかな? 絶神とラブラブしちゃったり……?
★抑えられない欲望 <繋がりと性愛>
・つながりたい! 手を触れ、体を寄せ合いたい。誰かと一緒にいないと正気を保てない。
・愛し合いたい! 抱きしめ合ったりキスをしたり、……それ以上は岩陰で!
★あやしい人
・イケメン監視員:真っ黒に焼けた肌、無駄のないムキムキ筋肉。触ってみたい?
・海の家のあかるい店員女子:ナチュラルに社交的で誰でも仲良くなっちゃう。超グラマー。
・浮き輪メガネ男子:ぷかぷかぷかぷか浮かんでる。あっちへこっちへ出会い頭でニタニタ声かけ。
・黒崎俊介:フツウではない包容力を醸しだして佇む。この魅力には誰も抗えない?
【D】寝子島高校
自由な校風があべこべに! 絶対に通いたくない「束縛」の寝子島高校。
制服をきちんと着て、時間厳守。髪の色も、女子の髪やスカートの長さも、ブラック校則のデパート。
次々と追加される厳しいルールの中で、絶神を見つけ出すことができるでしょうか???
★抑えられない欲望 <従順と反抗>
・縛られたい! Mっ気全開。厳しい指導に従いたい。理不尽なルールも守りたい。
・縛られたくない! 授業中に弁当。派手な髪型で登校。先生には喧嘩を売っちゃう!
★あやしい人
・桜栄あずさ理事長:あらゆるブラック校則を次々と生み出していく。違反者は捕まえてお仕置き。
・吉田熊吉先生:いつもと違って「愛」がない。ただ無闇に厳しく、酷く暴力的。
・ウォルター・ブラックウッド先生:反抗者には、殺傷力のある白い魔弾(魔界のチョーク)を投じる。
・テオ:ののこを守るという使命に縛られたくない気分。裏切る気満々です。本気です。
★あやしくない人
・ののこ:校則をきちんと守りたい! 超従順な、ののこらしからぬののこです。
【E】九夜山と三夜湖
燃える九夜山の森と、霧の三夜湖。1人1つどんな武器でもその手に!
誰彼かまわず倒したい狂気の中で、冷静に絶神を探して対処できるでしょうか?
★抑えられない欲望 <闘争と悪徳>
・戦いたい! 誰でもいいから戦う。ろっこんで武器で、バトルロワイヤル!
・悪に染まりたい…… 道徳なにそれ。良心などどこかに消え去っていく。
★あやしい人
・マッドサイエンティスト爺さん:凄まじいスピードで走り、注射器で毒を注入してくる。
・半ズボンのかわいい少年:ニコニコ笑いながらマシンガンをぶっ放す。
・島岡雪乃:トゲトゲで覆われた特殊オフロード車で暴走! 誰でも轢きまくる!
・クレイグ・ドナハ:気づけば星幽塔からやってきた。ハンマーでなんでもぶっ壊す!
★主な行動は1つに絞りましょう。
特にアクションで「あやしい人」やNPCに絡む場合は、基本的に1人のみを選択してください。
あっちもこっちも……というのは採用されない可能性が高いです。
★1人のプレイヤーさんが複数のPCさんで挑むのは大歓迎です。うまく連携してみてください。
もちろんお友だちとのGAもお気軽に!
★ミラはどこにでも出没して、みんなにお知らせしたり応援したりしています。
何か思いついたらミラに相談してみてもいいかも。『天界の鏡』もたくさんあるので、必要あれば使えます。
ただ、ミラもやっぱり欲望は抑えられないので、寝ちゃったり戦いを挑んできたりします。お気をつけて。
★何も知らず、絶神と関係なく過ごすのも全然OKです。
あまり難しいことを考えたくない人は、A・B・Cで自由に過ごすのがオススメです♪
さあ、いっしょに寝子島のフツウを死守しましょう。あるいは、楽しみましょう!
ご参加お待ちしております!