【お三夜】猫と鼠と人と悪魔、四つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と鼠と人と悪魔、四つの世界が交わる夜

　万条幸次は境内の一角でぼんやりと立っていた。
「どうするかなぁ」
　ちらりと斜め上を見る。巨大な鼠が聳え立ち、次の瞬間、ごろりと寝転がる。生木が折れるような湿っぽい音がした。
「あれは無理だなぁ。このままだと、他もダメっぽい。念じてみるかぁ」
　軽い溜息を吐いて目を閉じる。被っていたフードを突き破って猫の耳が生えた。ジーパンには穴が開いて尻尾が現れた。両手を毛が覆い、鋭い爪に変わる。
　『猫チェンジ』のろっこんが発動して猫の獣人に変貌を遂げた。
「音がよく聞こえるねぇ」
　幸次は裏山に目を向ける。仄暗い裾野を見通すような目となった。
「黒猫が追い掛けられているみたいだねぇ」
　その場で跳んだ。両足も変化していた為、跳躍力も増していた。空中で引っかくような動作を交える。
「腕力も上がっているかなぁ」
　着地して形態の変わった鼻を動かす。
「匂いが強く、なる！」
　幸次は跳び退りながら後ろを振り返る。着地して、あれぇー、と気の抜けた声を出した。
「それって兎だよねぇ」

「そっちは猫っていうか、化け猫よね？」
　白真白は被っていた兎の耳の付いたフードを少し上に押しやる。異形の姿の幸次を睨み付けた。ろっこんで鋼と化したリボンを構えてじりじりと近づいていく。
「なんか、誤解してない？　俺はこれから悪魔退治に行くんだけど」
「お三夜さまの味方なら争う理由がないわ」
　真白は握っていたリボンを下ろした。改めて幸次の全身を見詰める。
「もしかして、それもろっこんなの？」
「そうだよ。耳と目が強化されて、嗅覚も向上しているから敵を見つけ易いと思うんだよねぇ」
「私と組もうよ！　ね、そうしよう！」
「そうだねぇ。俺が敵を探すから君が戦うってことになるかなぁ。もちろん、攻撃できる時がきたら俺も頑張るけどねぇ」
　のんびりとした口調で手を差し出す。真白は満面の笑みで握って、よろしくね、と力強い握手を交わした。