【寝子祭2nd】前夜祭から後夜祭までフルリヤッヒィ！｜リアクション

【寝子祭2nd】前夜祭から後夜祭までフルリヤッヒィ！

　傍らの体温が身じろいだ。
　腕に足に絡んでいた女の柔い肌が動くのを感じながら、朝鳥さゆるは閉ざした黒い睫毛を震わせる。
　情事の後の泥沼のような眠りからずるりと引きずり出され、さゆるは深く息を吐いた。
「ねえ、」
　こちらの覚醒に気づいたらしい女──週末ごとに部屋に訪れては日曜の夕方まで肌を重ね合わせ快楽の底に引きずり込んで溺れさせようとしてくる女が、底知れぬほどに黒い瞳を瞬かせる。
「知ってる？」
　女の言葉も、耳元に甘く吹きかけられる息も、全て無視する。
「今日、寝子祭なのよ」
　女は、葉利沢倫理子の名で寝子高に通っている。
　二学期になっても相変わらず休みがちな日々を過ごしているさゆるとは違い、毎日毎日──『葉利沢倫理子』の振りをして。
　倫理子の身体を乗っ取って四か月を過ごした『Malice』は、だからともすればさゆるよりも今の寝子高について知っているのかもしれなかった。
　けれどそれも、さゆるにとってはどうでも良い事柄。
「ねえ、行ってみたら？」
　毛布の中に籠る二人分の体温と共、一糸まとわぬ裸体を絡みつかせて囁きかけて来るMaliceの声から顔を背ける。こちらが起きていることを確認してか、Maliceの声が揶揄の響きを帯びた。
「ミスコンに二人でエントリーしといたから」
　もちろん水着部門でね、と続けるMaliceにさゆるは白い背を向けて舌打ちすることで応じる。
「……勝手なことをするな」
「私はあなたとミスコンに出たいのよ」
　その背に残る己の爪痕を指先になぞり、Maliceは笑う。浮かべた嘲笑じみた笑みが自分自身には思いがけず甘く聞こえ、Maliceはほんの僅かの間唇を閉ざした。睫毛を伏せ、指先を白く華奢な背に這わせる。
「どうする、さゆる？　このまますっぽかす？」
　それでもいい、と薄く思う。それならばそれで、いつもの週末と同じに爛れた快楽の泥沼へとさゆるを引きずり込むまで。
　指先が腰のくびれに到達するより先、さゆるが溜息と共に身を起こした。情事の気怠い余韻を裸の腰や肢に纏わせたままベッドから這い出し、シャワールームへと向かう。
　さゆるの白く丸い尻をカーテンの暗闇の中に眺めながら、Maliceも身を起こした。邪険にされるのを理解していて、さゆるの後を追う。
「さゆる」
　ぽつり、呟く。
「……私はあなたを」
　己が持ち込んだ私服や小物類ばかりが散らばる薄暗い床に視線を巡らせる。さゆるが起居しているこの部屋は、さゆるのものではなく、さゆるのもとから姿を消したひとりの男のもの。
「あの藍人という男から奪ってみせる」
　さゆるは、今もこの部屋で男の帰りを待っている。
　問えば鬱陶し気な舌打ちか拒絶の無視ばかりが返って来るものの、それは答えに他ならない。
　言葉の端々に揶揄と悪意ばかりを滲ませる彼女の、全ての他者に対して容赦のない嘲笑を向ける彼女の、けれどその言葉だけはひどく真摯だった。
　己の唇から零れた言葉を小さな吐息で散らし、Maliceは知らず弾む足取りでさゆるに続いてシャワールームに裸体を滑り込ませる。熱い湯を浴びる背にしがみつくように身を寄せる。
「私服で行きましょう？　祭だし、構わないわ」

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