ユメユメ事変・壊　フツウ崩落｜リアクション

ユメユメ事変・壊　フツウ崩落

■雨崎荒太郎という男
「任せといてー、武道先輩」
　スマートフォンの通話アプリをきって、雨崎荒太郎は九夜山展望台の外へと出た。
　星ヶ丘駅前でクラッシュヘイターと戦う仲間たち。
　旧市街寝子島駅前で夕暮姫と戦う仲間たち。
　そんな彼らとは別に、荒太郎は単独で九夜山へと入り、ベラドンナとの戦いに備えていた。
「このままだと、学校も寮も危ないがんす！」
　鳥のように飛べる自分をイメージし、荒太郎はふわりと体を浮かび上がらせた。
　フツウの人々にとって山での行動は難しいものだが、高速飛行能力をもった荒太郎にはむしろ有利な地形である。
　荒太郎はキッと目標地点を見定めると、風を切って飛んでいく。
　一生懸命進めた準備を、台無しにするわけにはいかない。

　寮では荒太郎の主催した芋煮会が始まろうとしている。
　山や秋になれば山や河原にキャンプセットを持ち込んで、みんなでおいしく鍋を囲む。
　そんなフツウを守るのが、荒太郎という『猫鳴館の座敷童』の使命なのだ。
「芋煮が邪魔されちまうのは嫌がんす！」

　害魂使いの『ベラドンナ』の居場所はすぐに特定することができた。
　島北部に小舟をつけて上陸した白衣を羽織って咥えたばこをした女性が、周囲の植物をうねうねと生やして周囲よりずっと高い木にかえ、周辺の様子をうかがおうとしていたからだ。
　空を飛ぶ荒太郎と、絵本にでてきたマメの木のごとく高くはえた木につかまるベラドンナの目が合う。
「フフ、あなたがろっこん使いですか。あなたさえいなければ私はもっと幸せになれたのに……」
　周囲の木々を操作し、葉を刃のように鋭くして発射してくるベラドンナ。
「すごい、体に植物生やしてんのかい！」
　荒太郎は高速飛行と念動力を駆使して飛来する葉を回避。
　バレルロール機動をかけてすり抜けると、ベラドンナめがけて蹴りつける。
「原生林が歩いてる！？」
「挑発のつもりですか。いいですよねえ、あなたは余裕で……！」
　蹴り飛ばされつつもポケットにいれた植物を操作してパラシュート化すると、着地した木々をムチのようにしならせて荒太郎へと襲いかからせた。
「よくわかんないけど、怒ってるのはおなかが空いてるから、じゃないの？　がんす。空腹こそが、最大の敵じゃー」
　荒太郎は相手を挑発するように飛び回ると、川辺に開いていた芋煮会の会場まで誘導していった。
「なんで攻撃なんてするがんす。一緒に芋煮会しよう？　がんす」
「うるさいですねえ！　あなたがたが全部悪いんでしょう！？」
　どうやらベラドンナは重度の被害妄想にとらわれているようで、自分がうまくいかないのはすべて荒太郎たちろっこん使いのせいだと思い込んでいるようだ。
　会話が成り立たないなら、やはり戦うしかない。
　荒太郎は会場に着地すると、マキや調理道具に念力をかけ、ベラドンナへと発射した。
「おこったぞ！　寮特製の芋煮を、くらいーやがれー！」
　それを防御しようと触れた樹木を操るベラドンナだが、同じく物体操作能力を持つ荒太郎はいわゆる彼女の上位互換。
　まわりに人がおらずフツウが壊れにくいこの環境では、荒太郎の方が勝っていた。
　鍋やマキが頭にぶつかったベラドンナは衝撃によって気絶し、植物操作をといてその場へと倒れてしまった。
「ふう……」
　荒太郎は念力を使って道具を元の状態に戻すと、スマートフォンを取り出しつつ早速芋煮会の準備を進めるのだった。

このページにイラストを設定する