...calling｜リアクション

...calling

　BPM早め、攻撃的なまでのダンスナンバー。
　店内BGMだ。インド映画のサントラCDである。
　選んだのは萌だった。最初こそ、どれかけても同じでは？　なんて思っていたのだが、いまではちゃんとそれぞれの違いがわかる。メロウなものから派手なもの、楽しいものから怒りに満ちたものまで、さすが世界第二位の映画生産国、幅広くもディープな世界があるのだった。
　いまはいささか湿っぽくなったので、カラッと明るいアクション映画のサントラをチョイスした。ヒンディー語の歌詞はちんぷんかんぷんだが、バトルを煽るような言葉がならんでいるのだと、なんとなくフィーリングは理解できる。さっそく『ろっこん』が発動したらしく、ユウもウキウキと体を揺すっていた。
「ごちそうさまでしたー」
　アーナンドに笑みが戻った。カレーは人を笑顔にする。
「これならのれん分けもできそうですねー」
　嬉しい言葉に胸振るわせつつ、ナマステー、と萌は手を合わせた。
　ユウくんとカレー屋経営、そんな将来もアリかなあ――。
　想像のバルーンが頭上にもくもくと上がる。
　注文を受ける萌、窯からナンを取るユウ。ユウの背にはすやすやと眠る赤ちゃん……。
　――うん悪くない、悪くないよっ☆
「なにが悪くないんだ？」
　きょとんとした顔でユウが聞いてきた。
「おっと独り言っ」
　どうやら口から漏れていたらしい。「ちょめっ☆」と萌は自分にデコピンしておく。
「それでね、アーナンドさん」
　アーナンドに向かって、萌は照れくさげに告げた。
「前にちらっと話した季節限定メニューなんだけど……」
「おー、ハロウィンの？」
「インドカレー屋なのにハロウィンっておかしいかなぁ、ヒンドゥー教だし……まあそれを言うなら日本も一応、メインは神道や仏教なんだけど……」
「ノーノー大丈夫です。ワタシが子どものころはなかったけど、最近ではインドでもハロウィン、やります。クリスマスだってお祝いしますよー」
　もちろん、異国の習慣なぞけしからん、と厳格な地域や人もいる。だが外国人の多い都会では、わりあい寛容に受け入れられているという。
「まあ、寝子島みたいに島ごと仮装、なんて規模ではありませんけどねー」
「さすがにそのレベルなのは日本でも寝子島だけだと思うよ♪」
　それなら一安心、ということで試作品のカレーを萌は用意するのである。
「はい、ハロウィン限定カレー！　どうかな」
　二種類あった。ひとつは、イカスミを用いた暗闇カレーだ。まだ試作品なので黒いだけだが、提供時にはコウモリ型に切ったニンジンをのっける予定である。
「インドテイストで黒いカレーはめずらしいですねー」
　一口してアーナンドはうん、とうなずいた。
「しかもワタシ好みの激辛、グッドですね。具を工夫したらもっと面白いと思いますー」
「もうひとつはお子様向け、カボチャたっぷりの甘口カレーだよ♪」
　カボチャカレーは店でも日替わりローテーションのひとつとして存在するのだが、これはさらにぐつぐつ煮込んでカボチャを溶かし込んだ橙色のカレーだ。
　こちらはユウが試食した。
「んー、俺もどっちかっつーとカレーは辛口派になってきたから、ちとばかし物足りないではあるわな。だけどキッズにはちょうどいいくらいかも？」
「ハロウィンらしく紫か黒のワンポイントもほしいですねー。ナスビ入れてみるのはどうでしょう？」
「茄子は子ども嫌がらね？」　　
「黒いといえば海苔とか？　海苔で黒猫つくって乗せるの☆」
「黒猫かー、まあそれくらいなら簡単にできそうだしなー」
　などとワイワイ語り合うのも楽しい。ハロウィン限定カレーが『ザ・グレート・タージ・マハル』のテーブルを飾る日も近そうだ。

　さてさて開店までのひととき、話はハロウィンの仮装へと移っていった。
「アーナンドさんも仮装するの？」
「しますよー。もう考えてます」
「おおっ、やっぱりヒンドゥー教の神々のコスプレ？」
「あーそれ考えてませんでした。日本の漫画のキャラクターですよー。ほら、青い猫型ロボットの……」
「うわ意外！」
　思わず萌もユウも同時に声を上げていた。
「うちの子が好きなんで－」
　それで、と首を巡らせて萌はユウに問いかける。
「で、ユウくんはー？」
「俺？　それはトップシークレットだぜ」
　にししっとユウは笑った。
「おおっ」
「ま、考えてねーだけだけどよ」
「おおっ……」
　さてさて、きたるハロウィンは、どんな一日になることだろう？
　願わくば萌の作るカレーのように、刺激的であってほしいではないか！

このページにイラストを設定する

...calling

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧