...calling｜リアクション

...calling

　来年のことを言えば鬼が笑うというが、もう今年もあと2か月くらいなのだから、鬼さんにも勘弁してほしいところだ。
　いやひょっとしたら鬼さんも、来年への期待でわくわくして笑うという話だったりするのかな――。
　ともかく笑って過ごしたい、来年も。
　そんなことを考える志波武道だ。
　来年どうこうという連想が出るのは、武道がついさっき新しい手帳を買ったためだった。
　うーん、と店から出てすぐ鞄から取り出し、あらためてつくづくと眺める。
　満足度高いよなー、おニューの手帳！
　先日とある事情で、長年使っていた手帳を手放した武道である。事件顛末や警戒人物など、フツウを守るのに必要な情報を記すために手帳は必要だ。
　なので武道は今日までずっと、次代の相棒を探していたのだった。
　デジタル時代であろうとも、やはり紙の手帳は手放せない。それこそ日々を共にし苦楽を分かち合う相手であるから、あちらの文具店こちらの雑貨屋と、妥協せず慎重にフィーリングのあう相手を武道は探した。
　まるで地図なき宝探し、完全に納得できるものを探そうとすると、どうしても手探りになってしまうものだ。
　目的は十月はじまりの手帳なので一か月近くかかったことになるが、本日ようやく武道は、使い心地、サイズ、質感、そのすべてにおいて合格点を余裕でクリアする逸品にめぐりあえたのだった。

　灯台もと暗し、意外だったよなあ。
　手帳探しをシーサイドタウンから開始した武道だったが、当初はジャストフィットするものを見つけることができなかった。
　もちろん品揃えはすごい。その日だけで、両手両脚の指を全部使っても足りないくらいの手帳を見ることができた。しかし帯に短したすきに長しというか、なかなか「これ！」というものがなかった。紙質でクリアしてもサイズが大きすぎたり、色やデザインが気に入っても肝心の中身が物足りなかったり、となんとももどかしい次第。
　実物を手に取らない限りわからないことがある。こればかりはインターネットの通販ですませるわけにはいかない。だから休みのたびに武道は、自分の足で相棒捜しを続けた。
　ひととおり寝子島をめぐって探すも果たせず、またシーサイドタウンに戻った本日ついに、初回はノーチェックだったギフトショップで武道は運命の手帳と出会ったのだった。
　いい手帳はいい贈り物になるからね、と武道は思う。見落としていた。最初にギフトショップを調べなかったのはうかつだったかもしれない。
　だが悔しいとは思わない。最高の相棒を手にすることができたのだから！
　携帯しやすいサイズのシステム手帳、使い勝手はもちろんのこと、紙の指ざわりから中身の構成、拡張性まで理想通りだった。路線図にメモに、十月始まりのダイアリーもしっかり装備できるし、中身を買い換えさえすればいつまでも使える構成になっているのも頼もしい。フェイクレザーのブラウンで無地、チャックもついているので防水性にもすぐれているのだ。好みのペンを挟める設計になっているのも嬉しいじゃないか。お値段はそれなりにするものの、ちゃんとメンテナンスすれば十年は使える頑健さがあった。長く使うつもりなら、ロングスパンでみて割安になることは間違いないだろう。
　よろしく頼むよ、とさっそく胸ポケットに手帳を入れて、その厚みに心音を吸収させつつ武道は帰路についた。
　うん……？
　救急車が目の前を横切っていった。足を止めて見送る。
　港の方角に行くみたいだ。船舶関係の事故かな。
　それはそれとしてさておき、武道の歩みは『クラン＝Ｇ』へと向かっている。
　そーいやこの前の、未来の自分ゲーム楽しかったなぁ、ちょっとお店のぞいていこうかな？
　そのくらいの軽い気持ちだ。なにかあったというわけではない。

　なにかあったのは、『クラン＝Ｇ』のほうだ。