【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～リゾルブ・ワールド！｜リアクション

【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～リゾルブ・ワールド！

●寝子島マスカレード・ミーティング

　四隅に暗がりが広がるどこかの一室。
　荒廃的な雰囲気の少女がインターネット配信のための機材を弄っている。
　ハーフアップの灰色の髪は寒色のチェックのリボンで括られ、柳のようにしなやかに揺れている。
　彼女の名はエレノア・エインズワース。
　副会長に立候補したその人だ。
　エレノアの企画は『寝子島マスカレード・ミーティング』。その名の通り、参加者の匿名を前提としたウェブミーティングを開催し、「地球のためになりそうなこと」というテーマで議論するというものだ。その様子を生放送でインターネット上に公開される。
　エレノアはイヤホンマイクを装着し、生放送開始のボタンをクリックする。
「皆様こんにちは。本日は「地球のためになりそうなこと」というテーマで議論をしましょう」
　参加条件は「匿名であること」。
　ミーティングは音声のみで、ボイスチェンジャーの利用を義務付けている。
　放送が始まると同時に、画面上に表示される視聴者の数は増えていく。
　ただ、エレノアと対話しようという者は現れない。
「成程。では私の考えを述べましょう。『地球のためになりそうなこと』……すぐには思いつかないかもしれませんね。では、逆の視点から考えてみましょうか」
　ひらり。エレノアは画面には映っていない手のひらを返す。
「考えてみたんですよ、攻撃者の視点で……地球のための取り組みを破壊するにはどうするか。一つは矛盾を突くことです」
『矛盾？』
『エレノアちゃんの考えを聞かせて』
　画面内にコメントが流れる。
「その人間の言動を洗えば何か一つは主張にそぐわぬことをしてるものです。そこを突くんですよ。――『地球温暖化？　なら飛行機を使うな』『プラスチック削減？　ならストロー使うな』てね。それを防ぐには内容と発言者を切り離す……今日はそんな趣です」
　だからこそ、匿名性を重視したのだ。
　さらにコメントが流れる。
『人類が滅びれば一番エコじゃない？』
「それはそうですね、身も蓋もないからこそ正しい」
『環境保護のための行動が相反したら？　毛皮を控えて人工毛皮をと言っても、今度は人工毛皮の化学繊維が問題になる、馬鹿馬鹿しい』
「ふむ、環境活動をできるほど人間は賢いかも分かりませんしね」
　締めにエレノアはもう一度匿名性に言及した。
　けっきょく対話に交じってくる者は一人もなかった。
　それでいて観客数はそれなりにいたというのが面白い。
「今日の意見、発言したら先生に嫌な顔をされそうなのもありましたね？　……言論の自由は貴方が思う以上に抑圧されてるものです」
　生放送を終了する。
　イヤホンマイクを外し、放送終了の文字が映る画面を見つめてエレノアは皮肉な笑みを浮かべ続けた。