【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～リゾルブ・ワールド！｜リアクション

【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～リゾルブ・ワールド！

●準備・その２

　琳子は高校三年生。
　就職を希望していた彼女のもとには、先日、寝子島信用金庫からの採用通知が学校を通じて届いていた。
　これで来年の春からは社会人。
　将来の進路のめどが立つというのはほっとするものだ。
（やっとお母さんに少しは楽にさせてやれるかな）
　母子家庭で幼い妹のいる琳子は、そんなふうにも思ったりする。
　琳子は自らが纏う寝子高の制服のスカートの、太腿のあたりをそっと撫でた。
　この制服ももうすぐ着納め。半年後には寝子島信用金庫の制服に変わっている。
（……高校の制服から職場の制服に変わるだけ、じゃないの）
　服が変わるだけ。大したことはない。はず。
　けれどその意味合いは学生と社会人とでは大きく変わる。
　学生時代に許された、あるいは大目に見てもらえたことは、一切通用しなくなる。
　それは――大人になるという自覚。
　悪い事ではないはずなのに、何故か心がささくれ立つ。
（半年なんてあっと言う間。せっかく将来のめどもついたのに、なぜこんなにピリピリするんだろう……？）
　隣でパソコンやドローンを弄る修が、妙に落ち着いて見える。
（私は、きっとまだ子供なんだ）
　そして、その「子供の時間」もあと少しで終わる。
　子供の時間が終わったら、自動的に大人になるのだろうか？
「どうかしましたか？」
　修がふと顔を上げた。
「いえ……べつに」
　自分より先に大人になっているかのような修から顔を背け、琳子は自分の仕事に専念する。
　表面上は何事もないかのように淡々と。
　けれど彼女のささくれ立った「空気」はあたりに伝わっていた。
「お疲れー。投票箱の設置の設置完了！　こっちはどう琳子ちゃ……」
　碧南といっしょに戻ってきた太陽は、琳子のどことなく不機嫌な顔に思わず言葉を呑む。
　さすがの彼でもナンパしづらい雰囲気を醸し出していたと言わざるを得ない。
　
　そんな空気を破ったのは、碧南の声だった。
「あっ！　審査員のみなさんがお見えになりました！」
　やってきたのは、動物園飼育員の白野さんと熊山さん、金髪で溌剌とした雰囲気の旅行者の少女、そして短めの金茶の髪を後ろで束ねた二十代後半のように見える青年……。
「シリウス・グランさん……？」
「いかにもなのニャ……じゃなくて、なのじゃ……なのだ……？」
　語尾に迷っている。
「グラン……様、あれ？　おうさ……」
　修も気づいて唖然とした。
　何を隠そうこのシリウスさん、じつは「いぬねこの国」のねこの王さまなのである。星幽塔を経由して寝子島に来ることができるようになって以来、王さまはときどきこうして寝子島に来ているのだ。
「お忍びですか」
　修がこそこそ耳打ちするとややばつが悪そうにうなずく王さま。深くは聞くまい。
　碧南もかつていぬねこの国で関わりのあった王さまに気付いたが、あのときは皆いぬねこの姿だったので、どうやら人間の姿をした自分には気づいていない様子だ。
「今日はお越しいただきありがとうございます」
　初めて会う、という感じで接しようと丁寧に挨拶。
　すると王さまときたら、可愛い女の子を誘うのは礼儀とばかりに、
「今度デートするかニャ……じゃなくて、デートしようぞ、じゃなくて……デートしようよ……？」
　などと迷子の語尾でナンパしてくるので、内心でズッコケる。
（まあいっか……乙女ゲーでもこういうタイプの攻略対象がいるし）
　修が希望のお茶請けを察しさっとご用意。――猫カリカリに似たビスケットだ。
　選挙や学校についても分かり易く説明する。
「いぬねこの世界とは違うということがよく分かったニャ。なんとかやってみるニャ」
「宜しくお願いします」
　修と碧南は王さまに失礼のないよう、礼儀正しく頭を下げた。

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