【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～リゾルブ・ワールド！｜リアクション

【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～リゾルブ・ワールド！

●寝子島マイバッグコレクション・その３

　KO・HA・GI！
　KO・HA・GI！

　ホットな小萩コールに包まれて小萩が退場していくと、急に曲調が切なげな民族音楽調のものに変わった。
　会場は影のある緑色に染まり、小さな琥珀色の光が木漏れ日のようにさざめくライトアップ。
　会場がしんと静まり返るなか登場したのは、三宅葉月であった。
　寝子高の制服をごく普通に着ているだけなのに、物静かな歩き方と言い、ゆるりと長く緑がかった黒髪の揺れる様といい、独特なアンニュイな空気感を纏っている。
　志桜里はあえて沈黙し、特別な演出をせず、葉月のもつ雰囲気を大切にした。
　それはまるで、おとぎ話の森に暮らす高貴な森の精霊かハイエルフのような存在が、気まぐれにファッションショーのモデルをしている、といった風情であった。
　葉月は洒落たエコバックを肩から下げて、ランウェイを歩いて来た。
　それは、描き損じの絵や英字新聞、包装紙などを継ぎ接ぎして大きめの紙にし、それをバッグにして仕立てたものであった。
　去年の秋に手遊びで作ったものだったが、意外におしゃれに仕上がったので気に入っている逸品だ。
　比較的丈夫なのもポイントで、身の回りのものを入れて移動する分にはこのバックひとつで大丈夫。
　芸術科に所属し、日ごろからスケッチなど好む葉月の必須品といえばスケッチブックと七十二色の色鉛筆なのだが、それらをいれて、さらに幾らかこまごまとしたものを入れても問題なく使えているのだから、耐久性としては充分だろう。
　観客などそこにいないかのように葉月は自分の世界観を損なうことなくステージの中央まで歩いて来た。
　照明にも音楽にも人の視線にも囚われることなき眼差しは、どこか遠く神代の世界を見ているかのよう。
　ふいに、人の世界に気付いたとでもいうように、バッグが見えるように肩から外して示してみせる。
　それから今度は反対側の肩にかけ、葉月はしゃなりしゃなりと音のするような上品さでランウェイを戻り、ステージの裾に消えて行った。
　ほう……と観客たちはため息を吐いた。
　ショーということを忘れ、夢を見ていたかのような心持ちだった。
　葉月の不思議な魅力に囚われ、いったいどんなバックを持っていたのかよく覚えていない人がほとんどであったが、それでも、環境やエコになぜか想いを馳せてしまうのであった。

　葉月のランウェイが終わると、曲調はまた明るくなった。
　トリはもちろん、雨崎楓香！
　緑色の絨毯で作ったランウェイをバッグを肩にかけ、観客たちに向かって手を振りながらのウォーキング。
　楓香がステージ中央まで来ると、今までに登場した秘月、桜、小萩、葉月もふたたびマイエコバックを手に登場し、楓香を中央にして一列に並ぶ。

　♪ガサガサ鳴らすプラスティックバッグ、まだまだ曝す用済みの不始末
　♪What is cool？
　♪割を食うのは他人だけじゃない自分ってのが最新のサイエンス
　♪提示するハイセンスな解決お後がよろしいようで

　志桜里のラップが冴えわたる。
「今日はお越しいただきありがとうございました！」
　楓香が挨拶をすると、五人は手をつなぎ、一旦高く持ち上げると深々と一礼した。
　志桜里も舞台裾から出て来て一礼すると、やや落ち着いた口調でショーを締めくくった。
　
「如何だったでしょうか、気になって貰えたらパーカー着はじめくらいの気軽さで始めてみると楽しいですよ。それでは参加者の皆にHands up！」

　会場は大きな拍手に包まる。
（さてどれだけ魅力とか伝えられたかは分からないけど地球にも楓香君にも少しは役に立てただろうか）
　秘月は眼鏡の蔦を持ち上げ、そっと楓香を横目で見る。
　楓香の横顔は満足そうで、その瞳は少し潤んでいるように見える。
（うん……よかった）
　こうして、寝子島マイバッグコレクションは盛況のうちに幕を閉じたのであった。