【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！｜リアクション

【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！

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　水谷真優理は、舞台袖へと消えていく絢の後ろ姿を見つめなながら、うっとりとした吐息を漏らしていた。
　席を外している間に居なくなっていると思ったら、舞台に上がっているなんて。
　それも、バニースーツで二刀流だなんて！
　黒兎に扮したほっそりとした肢体が跳び、駆け、そして鋭くも激しく二本の短刀を振るう様はカッコよくて色っぽく、可愛かった。
　絢が居なくなったあとも、真優理の視線はしばらく舞台袖に向けられたままだった。
　何度目かの余韻のため息をこぼした後、今度は少し悔いのまじった息をこぼした。
（撮影できてたらな……）
　そうしたら、バニー姿で暴れる絢の姿を残しておけたのに。
　あるいは、一緒に舞台に上がれていたら。
「そこのあんた、舞台に出ててみる気はねえか」
　弾かれたように振り向けば、そこに居るのはサンマさんこと寝子サンマ。
「舞台って、今やってる劇のこと？」
「ああ、そ」
「出るわ」
　

　かなり食い気味の即答だった。
（もしかしたら絢ちゃんと絡めるかも！）
　うまくやれば自分から、その機会を作りに行くことだってできるはずだ。なにせ、フルアドリブの即興劇だし。
「そうと決まれば話は早え、さあこっちだ！」
　サンマさんに案内されて、真優理はノリノリで舞台裏へと向かう。

◆
　（……うまくいったみたいでよかった）
　舞台裏へ引っ込むと同時に、魔法使い――滝原レオンはほっと胸をなでおろした。
　身体が揺れているかと思うほどの勢いで、心臓がばっくんばっくんしている。
　ののこの猛アタックにおされてつい首を縦に振ってしまった時は、絶対無理だしもうどうしたものかと思っていたけれど。
　このドレスがあって、というか気付いてよかったとドレスを見下ろす。
　レオンは、普段から演技をしている。しかし、それは舞台に上がってやるものとは話が違っていて。
　だから絶対無理だ、最悪一瞬でてきてちょっと通り過ぎて終わりくらいじゃないと無理だと、ややテンパっていた。
　けれど、このドレスのおかげで閃いた。
　普段から演技をしているのなら、その「普段」に寄せてしまえばいいのだ――と。
　ドレスに、ロングのウィッグ、少しのメイク。
　見た目は完全に女性になって、「滝原レオン」は「滝川怜」へと姿を、そして在り様を変える。
　そうすれば、あとは演技のほうがついてくる……というわけだ。
（とりあえず舞台には上がったし、これで安心か）
　しばらく、劇の展開を見守ることにした。