【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！｜リアクション

【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！

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　――次の演目は「即興☆ねこじま劇団『猫っかぶり座』」による、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島』です。
　アナウンスが響き、幕が上がる。
「むかしむかし、あるところに――」
　元気いっぱいなナレーションは、野々ののこの声だろうか。
　パッ、と。
　ひとつ灯ったスポットライトの下で、たぬきがおなかをぽんぽこぽんぽこ、わんすあぽんぽんぽこ叩いていた。
「私はたぬき。たぬきだぽん……ぽこ……たぬ？」
　おなかをぽんぽこ叩く手は止めないままに、たぬきの着ぐるみ姿の嘉渡洲稀跡は体ごと首をかしげる。
　早くも語尾が迷子で、そして棒読みだった。
「――なんということでしょう、たぬきは人に化けすぎてたぬきとしての自分を失いつつあったのです」
　直後、ガーンというSE。
「……人に化けすぎて鳴き方忘れたけれど、私はたぬきだぽこ」
　一人、いや一匹ぽこぽこうなずく稀跡。
　観客席から笑い声が漏れるなか、舞台袖からずるりずるり、少し重たげな音を鳴らす影が現れる。

　大蛇が纏わりついた、鬼面の少女――愛猫萌々子演じる、清姫だった。
「私に嘘をついた、『あの人』はどこ……？」
　ぐるん、と髪を振り乱して観客席を見まわし、ぎょろりと睨めつける。
「どこ、どこなの……」
　『あの人』を求め、蛇が這うような足取りで清姫は舞台を進む。
　そんな彼女に、ぽんぽこ腹つづみをしながらたぬきが声をかける。
「そこなお人、何かをお探しかたぬ？」
　ガッ、とたぬきの肩を掴む清姫。蛇が鎌首をもたげるようにして、恨みに燃えるようにも、恋慕に濡れるようにも思える瞳でたぬきを見上げる。
「……『あの人』を。あの日からずっと、『あの人』を」
　ならば、と。たぬきは舞台の向こうを指差させば、
「あちらのほうへと行かれるが良いぽこ！」
　揺らめく水面のような、青い光が舞台上に差した。
　ワンテンポ遅れて、スクリーンに投影されるお城の映像。
　踊る魚やヒトデ、サンゴに囲まれたそのお城は、まごうことなき竜宮城であった。
「たきったとあのたひとがた見つかたるかもしれたない、たぬき」
「たきっ……？　『あの人』が見つかるかもしれないのね、ありがとうたぬきさん！」
　突然のたぬき言葉に困惑しつつ、たぬきで反芻してフォロー。
　竜宮城めざして去っていく清姫を、
「……いってらっしゃいあぽん～！」
　たぬきは棒読みと無表情で、けれど身振りだけはとても元気いっぱいに見送るのだった。

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