【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！｜リアクション

【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！

◆
「先輩、がんばりましょうね！」　
　せり上がっていく奈落の上で、雨崎楓香は小声で卵城秘月に声をかけた。
　流れで参加することになったのだけれど、先輩と一緒に演技できるのは嬉しいし、なんだかドキドキする。
　……ドキドキするのは、この間の密着指導のせいもあるのかもしれない。
　とはいえ。
　スキンシップの多い習慣のある所にいた人なんだなぁ、と楓香のほうは納得している。
　だから、秘月からほんのわずかに漂う、張り詰めたような空気には気づかない。

「ああ、がんばろう」
　爽やかな笑顔を返しつつ、秘月の内心はあまり穏やかな状態ではなかった。
　なんせこの間、楓香にバスケを教えていた時、妙に自分を抑えられなかったから。
　ぼろを出して感づかれてしまったり、ましてやあの時のように暴走することのない様、普段どおりを心がけなければ。
　演劇に集中していればきっと大丈夫、大丈夫……。
　なんて考えている間に奈落が上がりきり、二人の姿をスモークが一時隠す。

　スモークが晴れると同時に、真っ赤だった照明がスポットライトへと切り替わた。
　光の中に、秘月扮するメアリー・リードと、扮するアン・ボニーの二人組の姿が浮かび上がる。

「おやおや、ツイてるじゃないか！　こんなお城に出会えるなんてねえ！」
　竜宮城へとカットラスを向け、ニヤリとサメのような笑みを浮かべるメアリー。
「きっとお宝がたんまりね！　それにあのペンギンと猫娘はペットにしがいがありそう！」
　景気づけとばかりに、アンがピストルを頭上高くにぶちかます。
　それを合図に、二人の海賊は竜宮城へと駆け出した。

◆
「みんな早く逃げるにゃー！」
　響タルト演じる猫娘が走りまわって呼びかける間にも、二人の海賊は竜宮城へと迫る。
「逃がしゃしないよー！」
　アンのピストルが火を噴き、竜宮城の面々の足を止めさせる。
　そこへすかさず、メアリーがカットラスを鋭く閃かせて踊りかかった。
　狙うは大将首、すなわち王様！
「危ねえ！」
　半ば演技も忘れて、王様を押しのける乙姫。そのままくるりと身を翻せば、衣装がふわりひらりと舞い踊る。
（あれ？）
　その時、小次郎はふと気づく。
　もしかしてこの動き、ダンスのノリでいけるのでは？
　ダンスなら身体が覚えている。演技は全然だったが、これならいけるかもしれない。
「ハッ！　お姫様なんかいいとこ人質がせきの山だと思っていたら！　なかなかいい動きをするじゃあないか！　踊り子かと思っちまったよ！」
　獰猛に笑うメアリーが刃を返す。
　軽やかな、しかし力強さも感じさせる動きで、その剣撃をいなす乙姫。
　――いける。
　確信が、小次郎の脳裏をよぎった。
（よっしゃ、やってやるぜ！）

　ちょうどその時、流れ出すBGM。
　軽快なテンポの音色にあわせてカットラスが閃き、乙姫の衣装が乱れ舞う。
　
　そんな鋭く華やかな舞踏の傍らで、アンも殺陣を繰り広げていた。
「よーほー！」
　演じるうちに気持ちが昂ぶってきたのか、本物の海賊さながらに雄叫びをあげながらアンは銃をぶっぱなす。
「いい加減にするにゃー！」
　銃撃をやり過ごし、背後にまわりこむ猫娘。
　そのまま飛びかかれば、アンは後ずさって態勢を崩した。
　銃をくるりと持ち替えれば、胡椒挽きじみた持ち手を使った打撃武器へと早変わり。
　勢いよく振りかざしたところで、
「すきありー！」
　横面から飛び込んできたペンギンが銃を払い落とす。
　音を立てて舞台を滑る銃を追いかければ、メアリーと背中合わせの格好に。
「これは襲撃失敗かも」
　なんてアンがメアリーに囁いた、その時。
　竜宮城のセットを叩き割るような勢いのSEと共に、新たな闖入者が出現した。