【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！｜リアクション

【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！

◆
　たぬきと清姫の舞台の裏で。
「ひぇぇ～なんだこの衣装」
　和風のひらっひら衣装を身に着けた化神小次郎が、姿見に映る自分の姿を眺めてぼやいていた。
　裾をつまみあげ、前に後ろに衣装を見回す。
「あたし絶対こんなの似合わないって……」
　そうは言いつつ、声の調子は案外まんざらでもなさそうだし、ほんのちょっぴり頬も緩んでいる。実は結構嫌いじゃないのだ。
　そのうちに、ふと小さくため息をこぼす。　
（成り行きで参加することになっちまったけど……大丈夫かなあたし）
　吉田熊吉先生がののこに根負けし、なら相撲部マネージャーとして引くわけには……と一緒に参加したまではよかったが。
　舞台に出るとか正直自信が――
「ちょうど良かった！　その衣装ぴったりだから出て出て！」
「えっ、なっ、もう！？」
　裏方スタッフにぐいぐい引っ張られ、心の準備の間もなく舞台袖へ。
　（思ったより人多いな……）
　舞台が、そして観客席の様子が見えるだけで、緊張と恥ずかしさで身体が熱くなる。
　けれど――
「おうなんだ、似合ってんじゃねえか！」
　慌てて振り返れば、そこには偉い人っぽい和風衣装に身を包んだ熊センセーの姿がそこにはあった。
　ただでさえ緊張していたところに不意に声をかけられ、顔が少し熱を帯びる。
　思わず袖で隠すように数歩後ずされば、そのまま舞台へまろびでてしまった。
　やべっ、と思ったときにはもう遅い。
　揺らめくような青い照明の輝きに、踊る海の生き物たち（書き割り）の中に、小次郎は一人ぽつんと立っていた。
　とっさのことに、ぎこちない動作で辺りを見回す小次郎。
　そこへ反対の舞台袖から現れたのは、
「やぁやぁ、何かお困りのようで」

　燕尾服姿の鴻上彰尋だった。
「私はちょうど王子の使いを終えて帰るところの鳥でございます。お役に立てることがあれば、喜んで」
　執事のように一礼する彰尋。その動きや台詞の調子には、観客には「遅い」と思わせず、けれど小次郎が落ち着きを取り戻す時間を稼げるだけの、絶妙なゆったりさがあった。
（熊センセーにビビってる所は見せらんねえ）
　意を決し、そして緊張を踏み潰すように一歩踏み出す。
「竜宮城の外を少し散歩してみようと思ったら、迷ってしまって……オホホ」
「それはそれは大変ですね。竜宮城へお帰りになれるよう、お手伝いいたしましょう」
　ひとまず場が繋がったところで、ぺったんぺったんどたたと可愛らしくも賑やかな足音。
「おとひめ様ー！　見つけたよ！よ！」
　

　ペンギンの着ぐるみに身を包んだ柚瀬玲音が両手、もとい両翼をバタバタさせながら小次郎に――乙姫のもとへ駆け寄る。
「お城のみんなで探してたんだよ！だよ！」
　ほらもどるよ！と、ぐいぐい乙姫の袖を引っぱるペンギン。その様子に、燕尾服の渡り鳥が微笑む。
　フォローの役目はひとまず果たせたようだ。
「おや、お手伝いは必要なかったようですね。それでは私は、この辺りで失礼を」
　一礼して去ろうとするその背中に、まって！とペンギン。
「おとひめ様がおせわになったから、お城でお礼するよ！　おとひめ様もいいよね！ね！」
「い、いいんじゃね……じゃない、いいんじゃないかしら、オホホ……」
「そういうことでしたら、ご厚意に甘えさせていただきましょう」
　せっかくなので、その場のノリにはのっていく彰尋だった。

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