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　――というわけで、魔女宅の力で危機を脱した一行。
「魔女さん、ありがとなぁ！」
「お礼には及ばないよ！　だってこのために配達されてきたんだからね！」
　ちょっと得意げに、魔女は胸を張る。切り札的なお助けキャラ、というのがその役どころらしい。
「これならきっと、鬼退治もうまくいくね」
　あおいのウェンディが何気なく口にした言葉に、「そういえば」とるーじゅが小さく首を傾げる。
「さっきのお姉さんも、鬼って言ってなかったけ？」
　正確にはリリック中で『悪鬼』と自称していただけなのだが、「鬼と言っていた」と言えば、確かにその通り。
「あれあれ？　じゃあもう鬼退治しちゃったのかな？かな？」
「あれー？」
　玲音のペンギンの言葉に、サンマ太郎もこれまた首を傾げる。
　そこはちゃんと否定しないと、旅の目的が消滅してしまうのだけれども。
　すかさず修のピーターが、口を開こうとしたその時。

　一人の女海賊が姿を現し、客席が既視感に戸惑い揺れた。
　それもそのはず、森篠 琳子が劇団「NK3-寝子高3年連合-」で演じた、和風女海賊の姿そのままで登場したからだ。
　身構える一行を前に、女海賊はすらりと刀を抜き放った。
　

◆
　少し時間はさかのぼり、劇団「NK3-寝子高3年連合-」の上演が終わってすぐのこと。
　のどが渇いてしかたなかった森篠 琳子は、外の自販機まで飲み物を買いに来ていた。
　着替えるの時間も惜しいくらいの喉の渇きっぷりだったもので、劇に出ていた時の衣装のままで。
　思えば、それで目を引いたというのもあったのだろう。
　ペットボトルを一気に半分ほど飲み干し、ようやくひと心地ついたところで、
「ねえねえ、一緒に劇やらない！？」
　とやたらハイテンションな、ののこの呼びかけに出くわした。
「えっ」
　思わず聞き返してしまったのが、運の尽きというべきか。
　マシンガンのような怒涛の勢いで勧誘された。
「即興劇はちょっと……」
　そもそも今さっきまで劇をやっていたばかりだし、しかも即興劇ともなると負担もかなり大きい。
「せっかくさそってもらったのに悪いけど――」
　そこまでは、声にしたのだけれど。
　それはそれは熱心に誘っていたののこの表情が、「そっかぁ」と残念そうに変わるのを見ると、なんだか「けど」の後が続かなくなってしまった。
　だから、つい。
「……いえ、やるわ」
　言ってしまった。
「ほんと！？　ありがとー！」
　ペットボトルを持っていない方の手を取って、ののこは半ば振りまわす勢いでぶんぶん振った。
　それから集合時間と場所を告げると、またどこかへと走っていってしまう。
　きっと、まだまだ他の人に声をかけるつもりなのだろう。
　その後ろ姿を見送ると、またどっと喉が渇いたような気がした。



　◆
　ーー再び現在。
　舞台に飛び出した琳子は、抜き放った刀をピーターパンへと突きつけた。
　誰もが思った。
　これはもしかして、和装の女海賊がフック船長ポジションなのか。
「犯人はお前だ！」
　だが和装海賊が放った言葉は、その場の全員のーーおそらく観客も含めてーー予想を裏切るものだった。
「オレが一体、なんの犯人だと？」
　突然の犯人扱いに、ピーターパンはさすがにいぶかしげに問いかけた。
「何の犯人か？　それはーー」
　とりあえず出てアドリブして去ろう、と思って勢いで言っただけ。
　刀で指したポーズのまま、ほんの一瞬だけ琳子は思案した。
　答えが思い浮かんだ瞬間、その気配の変化を敏感に感じ取ったのだろう。
　英二がパッ、と照明の雰囲気を変えた。探偵の種明かしっぽいやつに。
「因幡の白兎の皮を剥ぐよう、ワニをそそのかした真犯人よ！」
　衝撃的な印象を受けるSEが響き渡る。
「ピーターパン、そんなことしてたの！？」
　サンマ太郎が、サンマのぼりを落っことす勢いで驚いていた。
「ピ、ピーター……？」
　ウェンディが、不安げに揺れる瞳で問いかける。
　しばしの沈黙を経て、ピーターパンが口を開く。
　しかし、その直前だった。
「ーー父の仇が、他にも居たとはね」
　ブラックバニーが、特撮のワイヤーアクションばりの勢いで襲来した。
　ピーターパンめがけ、容赦なく振りかざされる二本の短刀。
　だがそこに、チャイナドレス姿の影が割って入った！
「そこまでよ、ブラックバニー！　これ以上あなたの好きにさせては、時空がめちゃくちゃになってしまう！」
　時空警察が、アンチマテリアルライフルの銃身で短刀を受け止める。
　そのまま短刀を弾き、ワイヤーアクションでふわりと跳んで着地。
　と、同時にライフルを発砲。
　ライティングによって演出された光の弾丸が舞台を駆け、ブラックバニーがたまらず身をかわす。
　着弾点に、映像と音響を組み合わせた大爆発が巻き起こった。
「邪魔をしないで、時空警察！」
　短刀を逆手に持ち替え、ブラックバニーが駆ける。
　時空警察へと肉薄し、ロッドのように振るわれる銃身が、短刀と激しく打ち合い火花を散らすした。


　隙あらば放たれるライフルの光弾が、周囲に無差別な破壊を撒き散らす。
　これ幸いとばかりに海賊探偵が退場する傍らで、
「やーらーれーたー」
　流れ弾にぶちあたったらしいるーじゅもまた、くるくるまわってそのまま退場。
「るーじゅちゃーーうわぁっ！？」
　ウェンディがそちらに気を取られた直後、別の流れ弾が彼女とピーターパンの間に着弾した。
　大爆発が、二人を別つ。
「ピーター！」
　ウェンディの伸ばす手を、しかしピーターは取らなかった。
「鈴島でまた会おう」
　走り去っていくピーター。
　ウェンディが伸ばしたままの手は、ただ虚空だけを掴んでいる。