穴、穴、あなかしこ｜リアクション

穴、穴、あなかしこ

●あなかしこ？

　校庭を飛び回った後人間に戻ったラッセルは一息つき、ねこったーをチェックする。
「カタカナにもひらがなにも見えねーし、上から見ても規則性らしいものはわからなかったな……あれ？」
　気になるつぶやきが目に留まった。
『最初に落ちたのって、茶髪のコロコロした体格の奴だったな』
『ああ、助けられた後また校内で落ちたの見た。口元にほくろがある２年男子だろ？』
『あ、そのあとパン持って保健室行ったってよー』
　ラッセルは仰天する。
「……って、えーっ？！　それって最初に会った先輩かよ？！」
　

　その保健室の床には小さい穴が開いていた。
　幸い先生は留守のようだった。
　ラッセルからの知らせを受けて、天野、修、刀も集まってきた。
　ほかのケガ人は聖と澄佳に任せ、例の先輩を探す。
「何か用？」
　ベッドに座りふてくされた様子の茶髪の男子生徒に、ラッセルが声をかける。
「さっきはすみませんでした。ケガは大丈夫ですか？」
「あ、さっきの……、パン、ありがとう。うん、大丈夫だけど、歩くと危なっかしくて休んでた」
　やや警戒を緩めた様子で、男子生徒が答えた。
「最初に凹みに落ちたのって先輩ですよね？　何か心当たりはないですか？」
　天野の問いに、
「えっ、これ、俺のせいなの……？　そんな、穴があっ、むぐ」
（ボコッ）
　四人が口を押えようとしたが遅かった。
「……自分でもどうにもできないわけですか。その言葉はNGです。陥没と言い換えてください」
　修が言う。
　そう深くはない穴から上りながら、天野も言う。
「学校中ボコボコなのは勘弁なんでね。先生にばれるか、友人が地球の反対側へたどり着く前にどうにかしたいな、と」

　皆が名乗った後、男子生徒は話し始めた。
「関係あるのかはわかんないけど……俺は二年の穴吹拓也」（ボコッ）
　名乗るなり穴に落ちる穴吹。
　幸いケガはないようだ。
「その……憧れてた人に手紙を書いててさ。その人は国語が得意な綺麗な先輩で……」
　天野がちょっと眉をしかめる。
「話を聞くのは構いませんが、恋愛はカットでお願いします」
「あ、恋愛ってほどの話じゃないんだけど……。ちょっとカッコつけようと、手紙に難しい言葉使ってみたんだ」
「で、何か恥ずかしい失敗をしたというわけですか？」
　修が尋ねる。
「知らなかったんだよ！　あなかしこが、女性の使う言葉だなんて……」（ボコッ）
『……』『そんなことで……』『あなかしこ……なんだそりゃ？』『すごくどうでもいいな』
　心の中で四人がそれぞれ突っ込んだ。
「……まあ、誰にでもそんなことはありますよ。聞くは一時の恥、知らないままでいればもっと恥ずかしい思いをすることになったかもしれません」
　修のフォローに、穴の中で穴吹は頷いた。
「そうだよな……うん」
　穴吹に手を貸しながら、ラッセルは聞く。
「でも今まで恥ずかしい思いをしても、こういうことはなかったんだよな？」
「そうだ……さっき、モグラを見たんだ」
「モグラ？」
「ああ、校庭で……あったら入りたい、っていったとき、モグラが顔を出して。気がついたら穴に落ちてた」（ボコッ）
「詳しい場所を教えてください」
　もう手を貸すのが面倒くさくなりつつ、刀が聞いた時。
　
　天野と修の携帯から同時に着信音がした。
「あ、そういえば後木……」　

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