紅葉狩りと芋煮会｜リアクション

紅葉狩りと芋煮会

○芋煮会への道

　八神修は、学内掲示板の島のお知らせで芋煮会のことを知りました。
　七夜あおいを誘おう、と考えたとき、ちょうど当人が通りかかったのでした。
「修くん、何を見てるの？　……芋煮会？」
「あおい、ちょうどいいところへ。今誘おうか考えていたんだ」
　修は考えていたことを語ります。
「秋と言えば焼芋のイメージがあったんだけど、地域によっては芋煮なんだってさ。行ってみないか？」
「面白そうだね。私芋煮会って行った事ないから、ちょっと行ってみたいかも」
「俺も初体験なんだよね。楽しみだ」
　そして二人はお昼時に待ち合わせをしたのでした。

（芋煮会……聞いただけで胃が大騒ぎしそうな魅惑的な固有名詞だわ）
　聞いたからには、これに参加しないわけにはいかない。
　ショートヘアの高校１年生、楡宮遠海はそう思ったのでした。
　軽音部でハードな練習をしているから……という理由ではもはや説明がつかない、謎の食欲魔人ぶりを発揮する彼女は、芋煮会の話を聞いて矢も盾もたまらなくなったのです。
　ところが一つ問題がありました。
　彼女はこれまた意味不明なまでの、方向音痴という宿痾を持っていたのです。
　今までも何度道に迷い、目的地にたどり着くのに苦労したことか。
　けれど、最近は知恵を絞って解決策を見つけました。
　さすがに寝子高までは行けるので、桜花寮の近くまで行き、周囲を見回し、声に耳をすませます。
「芋煮会楽しみだなー」
　そう言いながら歩いていくのは野々ののこでした。
　さっそく発見。ののこが芋煮会に参加するであろうことは間違いありません。
　その後についていけば、ミッションクリアというわけです。
　
　桜花寮から出てきたのはののこだけではありません。
　その日特にすることもなかった高校１年の水上桜は、神魂の影響を受けたお芋の香りの風に吹かれ、ロングヘアをなびかせたときに。
「そうだ、芋煮会へ行かなきゃ」
　唐突に思いたちました。
　神魂の影響を嫌う桜がそのことに気づかなかったのは幸せなことでしょう。
　おいしいものを食べたくなるのに理由はない、とばかりに猫又川の川原へ向かいました。

　会場に着くと、もう食欲を刺激する薫りがそこらじゅうに漂っています。
　醤油ベースの出汁や味噌仕立ての芋の鍋など、いろんな香りに混じって芋の香りが漂ってきます。
（どれを食べたらいいかわからない……どっちも食べちゃえ）
　そう思ったので、桜はまずは醤油仕立ての芋煮から食べ始めました。
　鍋の近くには材料が書かれた紙も貼ってあります。
（芋のほかに牛肉、こんにゃく、まいたけ、ねぎ、ごぼう、にんじんなんかが入っているのね）
　さっそく食べてみると。
（よく煮えてて甘くておいしい！　芋はトロトロだし、その他の具材も良く火が通ってて、ダシの味も染みてるしで）
　気を良くした桜は続いて味噌味の鍋も試すことにしました。
（うん、こちらもおいしい！）

「バーベキューもあるのね」
　無事に芋煮会の会場へ到着した遠海は、各所に置かれた複数の鍋にＢＢＱ用のコンロだのを見つけ早くも心をときめかせました。
（いい匂いも漂ってくるし……）
　よだれを飲み込みながらさっそく鍋のほうへ向かうと、そこには寝子サンマさんが立っていました。
「お嬢さん、芋が煮えたとこだぜ～」
　サンマさんはそう言って、湯気の立つ芋煮を渡してくれました。
「ありがとう！」
　遠海の目はキラキラと輝いていました。
　猫舌な遠海は、良ーく冷ましてからでないと食べられないのですが、湯気とともに立ち上る甘い香りにもう食べる前から期待度ＭＡＸ。
「食欲が刺激されまくりだわ……早く食べたい」
　ふー、ふー。
　一生懸命吹いて冷まし、冷めた頃合いを見て芋を頬張ると。
　とろとろに煮崩れた芋が口の中で溶けます。
（甘くほくほくした食感がたまらない。醤油ベースの出汁がこれまたいい感じで……）
　遠海は、もうすごい勢いで食べまくるのでした。

　

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