ロンリー＊ドーリー＊グローリー｜リアクション

ロンリー＊ドーリー＊グローリー

「少し痛いかもしれないけど、これでちよちゃんが元気になるかも知れないから」
　折口ゆづきがこれからのことを説明する。
　観衆に向かっては折口は頭を下げる。
「整体術のようなモノなんです、ご理解ください」
　毒島林檎も折口に倣って頭を下げた。
　上穗木千鶴は必死な二人に自身のろっこんを使おうと足を一歩踏み出す。
　が、それ以上動けなかった。
　彼女らが不運に見舞われると思うと、どうしても踏み切ることができなかった。
　唇を噛み、うつむいていた上穗木が、さっと顔を上げた。
　神魂で動くぬいぐるみならば、不幸が訪れたとしても、痛覚もない。ましてや死ぬこともない。
　上穗木がついに口を開いた。
「クマ。本気で君は救いたいと思うか？」
　視線が上穗木に集まる。
「私の力を使えば、その子が回復する、かもしれない。
　その代わり、回復したとしても一緒にいられなくなる、かもしれない」
　上穗木の説明に誰もが息を呑んで耳を傾ける。
「もう一度問う。本気で君は救いたいと思うか？」
　クマはためらうことなく、両手を天に突き上げ、大きくうなづいた。
　上穗木も大きくうなづき、クマの両手を自身の豊潤な胸へと導いた。
「……これで、君は幸運と不運を手にした」
　見た目に変化はない。
　クマは不思議そうに両手を見つめた。

「チッ」
　吉祥寺黒子が忌々しげに吐き捨てる。
（この子を見てると昔の自分を思い出す）
　病に侵されたときの不快感がジクジクと腹の奥底に甦り、吉祥寺は眉間にしわを寄せた。　
「おい、てめぇ。やりたいことや見たいものとかあるよな！」
　必死に体の記憶から逃れようと頭を振って、ちよに向かって叫ぶ。
「やりたいこと？」
　そんなわがままを言ってもいいの？
　ちよの瞳が悲しそうに歪んだ。
　吉祥寺が怒りに震える。
「一緒に生きてたい奴ぐらい居るだろ！」
　吉祥寺に全力の言葉を浴び、ちよは思わず叫んだ。
「いる！……あ」
　自分の答えにちよ自身が驚きを隠せない。
　吉祥寺は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、そいつの為にもこんな所で病気なんかに負けんじゃねェ！」
　それからペロリと舌を出して、
「『俺は幸運だ』からテメェに俺の幸運分けてやる！
　俺の幸運の為にも、生きろ！」
　彼女は再び奇跡的な幸運と不運を呼び寄せる。

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