ぶらり、マタ旅！｜リアクション

ぶらり、マタ旅！

　シーサイドタウン駅前からキャットロードに向かって歩いている途中、旅鴉月詠は街路で絵を描いていた。
「月詠ちゃん、やっほーなのだ」
　真央がそう声をかけると、月詠はそちらを一瞥して、ああ、とだけ言ってまた絵に戻った。
「今日はテレビの取材があるんだったね。君たちがそうか」
「貴女は今何をされてるんですか？」
　月詠は、見ての通りだ、と言う。
「絵を描いている。この島はのんびりした気候で、創作活動にはとても良いんだ。毎日良い刺激を貰っている。私は星ヶ丘棲みだが、こうして休日は散歩しながら活動している。取材が終わって、手が空いたらのんびり島を回ってみるといい」
　そうやって喋っている間も手を休めずに、ずっと絵を描いている。どうやら島の風景を描いているようだ。
　このみはそんな月詠の手元をちらちらと気にしていた。
「スケッチブックが気になるのかい？」
　月詠はスケッチブックの完成した絵のページを見せた。そこには寝子島の風景の一部が描かれている。
「これは……旧市街の参道商店街ですね」
「ああ、もしかしてもう行ったのかい？」
「ええ。活気があって、とても素敵なところでしたよ」
　このみは、旧市街の少しレトロな町並みも、気に入ったという。
「それにしても猫が多いね」
「それは島の特性だ。君たちも猫をたくさん見かけただろう？」
　確かにたくさん見かけたが、撮影中はあまり実感は沸かなかった。恐らく映像の編集時にでも、その猫の多さを実感することだろう。
「時に、私は似顔絵も描いているのだが、貴女も如何？　一枚百円だ。手土産にちょうどいいと思う」
「いいですね！　それでは一枚お願いします」
　このみに続いて、四々郎も僕も僕もと名乗り出る。
　月詠は早速二人の似顔絵に取り掛かった。
「ラフスケッチは五分程度で終わるから、描いてる間に見て回ってくるといい。この島の取材が終わる頃にはとっくに描き上がっているさ。今日は恐らくずっとここで絵を描いているから後で取りに来てくれ。送り先を教えてくれたら、そこに届けても良い」
　そこまで手を煩わせては申し訳ないと、その場に受け取りに来ることにした。

　例によって、スタッフたちは月詠に寝子島コレクションの話を持ちかける。
「良いだろう」
　月詠はそう答えたものの、座ったまま絵を描き続けている。
「あ、あの、出来れば立って欲しいのですが……」
　言われて、月詠は立ち上がった。しかし絵を描く手を休めることはない。その撮影中にも立ちながらずっと絵を描いていた。
　本当は何らかのポーズを取って欲しかったのだが、カメラマンはこれもこれで個性が出ててアリかな、としてそのまま撮影することにした。
「器用だね」
　天野がそう言うと、
「一応、芸術科だからね」
　月詠はそう答えた。

　取材スタッフは、月詠にもシーサイドタウンのお勧め情報を尋ねた。
「『チュックマイマン』なんてどうだ？　この島でも珍しいベトナム雑貨の店だ。それとキャットロードにあるパワーストーンの店も良いだろう。どちらも女の子は興味あるはずだ」
　どちらにせよ、次の行き先はキャットロード方面だ。一行はそのまま先程まで向かっていた方向に進む。