ぶらり、マタ旅！｜リアクション

ぶらり、マタ旅！

　地上に出てきた一行は、その近くから再びロケバスでシーサイドタウン駅前まで移動した。
　それから一行が向かったのは、出演応募があったカラオケボックス『シャンテ』。
「いらっしゃいませ！」
　笑顔で取材班を出迎えたのは、シャンテの店長、典町託志と数人のアルバイト店員だった。
　託志はおろしたての服でピシっと決めていた。いつものボサボサ髪は整えられ、無精髭は綺麗に剃られていて、普段より若々しい印象を与える。
　アルバイトには、張り切り過ぎじゃないかと笑われてしまったのだが、滅多に無いことだし少しくらい張り切ってもいいだろう。
「カラオケ屋さんだね。ここのアピールポイントは何かな？」
「ウチの売りはなんといっても明るい雰囲気の店内と、元気バリバリのスタッフ！　サービス精神ならどこの店にも負けない自信があります！」
「店長さんも元気バリバリだね」
　そう四々郎に言われると、託志は、でしょ？と言って笑う。
「それにアットホームなとこもありますよ！　お客さんとは普通に日常会話とかしてたりします！」
「そこはチェーン店にはない、個人店ならではの良さですよね」
　それに店員同士のやりとりの雰囲気も良い。
　ここで働く店員にとっても、この職場はアットホームで居心地が良いのだろう。
「寝子高に近いこともあって、今の客層は主に高校生とか若者中心だけど、色んな年代の人に来てもらえたら嬉しいですね！」
「今日はいないみたいだけど、寝子高生の知り合いも何人かここでバイトしてるみたいだよ」
　天野がそういうと、へえ、と四々郎が漏らした。
「この島では、どこもかしこも寝子高生だなあ。やっぱり学生が元気な街はいいよね」
「木天蓼大の寝子島キャンパスがオープンしたら、もっとお客さん増えそうですね」
「それがまだオープンしてない今でも、結構来てくれてるんですよ。もう大学生のバイトもいるし」
　来年が楽しみだ、と託志は言った。

「せっかくですし、『マタ旅』を見て来てくれた人には、受付で言ってくれたらルーム料金20パーセント割引させて貰いますね！　ついでにフライドポテトもオマケしちゃいますよ！」
　託志がそう言うと、アルバイトの一人がカメラに近付き、
「テンチョーって乗せられやすいから、ちょっとおだてれば他にもサービスしてもらえるかもしれませんよ」
　こっそりそう言った。
　その点もチェーン店にはない、シャンテ独自の良い点と言えるだろう。それにそんなことが出来るということは、経営が安定している証拠だ。
「お、何話してたんだ？」
「かっこいいテンチョーに会いに、是非いらしてくださいって言っておきました」
「嬉しい事言ってくれるじゃねえか。よし、あとで何か奢ってやる！」
　その店員は、ほらね、とでも言うかのようにカメラに向かって悪戯っぽく笑いかけた。

　取材が終わった後、託志はこのみに話しかけた。
「お姉さん、良かったらウチで歌っていかない？」
　至って普通に接客をしたつもりだったのだが、軽いノリの託志にそう言われると、口説かれているようにも聞こえる。
「テンチョー、仕事中にナンパはやめてください！」
　案の定他のアルバイト店員に突っ込まれてしまい、託志は誤魔化すように笑った。