ぶらり、マタ旅！｜リアクション

ぶらり、マタ旅！

　月詠に勧められた二つ目の店、パワーストーン専門店「幸」の前まで来ていた。
　スタッフが言うには、この店にも出演応募をもらっていたらしい。そしてこの店が、撮影予定では最後の店となっていた。
「いらっしゃいませ」
　店内は静かだった。店に置かれている机とカウンターには、色とりどりのパワーストーンが並んでいる。
　そのカラフルなカウンターの中には、磴琥珀がぽつんと座っていた。
「ああ、マタ旅の取材ですね。父に聞いておりますよ。この度はうちの店に来ていただき真にありがとうございます。パワーストーン専門店『幸』の店主代理をしております。店主は只今不在ですので、私が代わりに店の宣伝をさせていただきます」
　この店の店主である琥珀の父は、現在原石探しの旅に出ている。
　世界のどこかにいる琥珀の父が、どこから聞きつけたのか『ぶらり、マタ旅！』に応募していたのだ。
　そんな状況に置かれていても琥珀はいつものように、のんびりと困って、そしてのんびりと対応していた。
「この店では皆さんの願いを叶えるための手助けをするパワーストーンを置いてあります。悩みもしくは叶えたい事柄があるなら、是非お立ち寄りくださいね」
　そこまで宣伝文句を言ってから、琥珀は父からの伝言を思い出した。
「ご迷惑でなければ、縦山さんと横谷さんに、ブレスレットか携帯ストラップをお作りさせていただきたいのですが」
　せっかくだから、と四々郎とこのみは、それぞれ作ってもらうことにした。
「好きな石を選んでください」
　先に石を決めたのはこのみだった。
「私はローズクォーツが好きなので、それでブレスレットをお願いします」
　淡いピンク色の石を指さして、そう言った。
「ローズクォーツは愛と優しさの象徴、また癒やしの効果もありますね。女性人気が高い石です。他の石と組み合わせたものもお作り出来ますが、いかがでしょう」
「そうですね……疲れを和らげてくれるような組み合わせは、何がありますか？」
「それならトルマリンとの組み合わせが良いのではないでしょうか」
　じゃあそれでお願いします、とこのみは言った。
　このみが手首のサイズを測られている一方で、四々郎はまだ肝心の石が決められないでいた。
「僕はパワーストーンには詳しくないからなあ」
「それなら、誕生石なんかはいかがでしょう。お誕生月は何月ですか？」
「八月だね」
「八月でしたら、こちらのペリドットですね」
　そう言って琥珀は黄緑色の透き通った石を指し示した。
「太陽の石とも呼ばれていて、マイナス感情を打ち消し、前向きにしてくれる効果がありますよ」
「いいね。黄緑は好きだし、この仕事向きだ。それで携帯ストラップをお願いしようかな」

「これだけあると、見ているだけでも結構楽しいね」
　ブレスレットとストラップが出来上がるのを待っている間、天野は店のパワーストーンを順々に眺めていった。
「いいなあ、真央ちゃんも欲しいのだ」
「あなたも、お一つ買って行かれますか？」
「うーん……でも、お高いのだ？」
　真央がそうやって羨んでいるところで、スタッフは琥珀に『マタ旅を見た』のコーナーに協力を頼めないかと申し出た。
　また四々郎が、取材経費で落とすだなんだと言いかねないからだ。食べ物だったらそれなりに安くあがるため負担は出来たが、パワーストーンだとどれだけかかるかわからない。
「おや、そんなコーナーがあるのですか。ふむ……それなら『マタ旅を見た』と言った方には放送日翌日の一日だけ、ブレスレット・携帯ストラップを千円で作らせていただきます。いかがです？」
　琥珀はそう言って、真央に笑いかけた。
「ありがとうなのだ！　その時に買いにくるのだ！」
　しばらくして、このみのブレスレットと四々郎の携帯ストラップが出来上がった。
　どちらも可愛らしい仕上がりになっていて、二人は大層満足したようだった。

　幸への取材を終えて、この日の撮影予定は無事終了した。
「君たち、いろいろとありがとうね」
　四々郎は、天野と真央に礼を言った。
「いえ、こちらこそいろんな場所に行けて楽しかったです」
「真央ちゃんも楽しかったのだ！　それに取材の勉強にもなったのだ！」
「うちの番組は基本的に行き当たりばったりなので、あまり参考にならないと思いますけどね……」
　そんな話をしているうちに、エンディング撮影の準備が出来たようだ。
「それではエンディングいきまーす、5、4、3……」
　オープニング撮影時と同じように、エンディングの撮影が始まった。
　『ぶらり、マタ旅！』いかがだったでしょうか。

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ぶらり、マタ旅！

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