ぶらり、マタ旅！｜リアクション

ぶらり、マタ旅！

　休日の寝子島駅前は賑わっている。
　地域住民と観光客とが入り混じった、ごちゃごちゃとしたその光景も寝子島ではいつものこと。
　しかし今日の寝子島駅前には、一般観光客には見えないような目立つ集団も存在していた。
　素人目には大仰な撮影機材一式を携えた一行。彼らは、テレビねここのオリジナル紀行番組『ぶらり、マタ旅！』のスタッフ一同である。
　その集団の中には二人の高校生が混ざっていた。
　御剣刀と小山内海。この二人は旧市街の案内役として、番組に出演することになっている。
「じゃあ君たちは『どうぞ！』って言われたら、横谷さんの隣に並んで、簡単な自己紹介と挨拶をしてください」
　刀と海は、スタッフの一人に番組の流れの説明を受けていた。一つだけ渡された台本を、二人で眺めている。
「二人とも、大丈夫？　緊張してない？」
　出演者の一人、木天蓼市のご当地タレントである縦山四々郎が、刀と海に声をかけた。
「俺は平気です。小山内は？」
『わたしはすこしきんちょうしてるかも……』
「うんうん、わかるよその気持ち。僕もデビュー当時はよく緊張で胃を痛めたものだった。でも心配いらないよ、あのお姉さんに任せておけば、だいたいのことが上手くいくからね」
　四々郎は、もう一人の出演者、アナウンサーの横谷このみを指さして言った。
　それに気付いたこのみは、にこにこと笑いながら三人の元に近寄る。
「何の話をしていたんですか？」
「今日も存分に頼らせてもらうよって話をしてたんだよ」
　それを聞いて一瞬呆れたような表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻して言った。
「頑張りましょうね」
　その場を支配していたぎこちない雰囲気が、少しだけ和らいだような気がした。

「それではオープニング行きまーす、5、4、3……」
　スタッフは声に出さず手だけで2、1、とカウントダウンする。それからその手は小さく振り下ろされ、
　『ぶらり、マタ旅！』はじまります。

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