ぶらり、マタ旅！｜リアクション

ぶらり、マタ旅！

　星ヶ丘の船着場から海上タクシーに乗り、取材班一行は鈴島に降り立っていた。
　寝子島からすぐに渡ることは出来るが、鈴島は未だ謎に包まれた島である。
　大昔に海底火山の爆発によって出来たとか、昔は人が住んでいたとか、謎の遺跡が残されているだとかの噂は絶えないが、実際の所はよくわかっていない。
「寝子島には何度も来るけど、ここに来たのは初めてだなあ」
「私もです。こんな所だったんですね」
　豪を先頭にして、島を探索していく。まずは砂浜周辺だ。隣の島があるおかげで海は見渡せないが、それでも十分に気持ちいい。
　季節によってはプライベートビーチ気分を味わえるかもしれない。
「この砂浜にはテントが張れそうだな」
　豪は探検部でのキャンプに向けて、下見を怠らない。
「バーベキューにも良さそうだね」
　砂浜から少し奥に入ると、そこは木々が生い茂った森になっていて薄暗く、地面は少し湿っている。
「この先は……行っても大丈夫なんですかね？」
「下手をすると迷いそうだね。引き返す？」
　取材班は奥に入るのを躊躇ったが、
「俺は先に行ってみます」
　豪は一人で奥へ歩いて行ってしまった。
「えっ！？　一人で行かせるのは危ないから君もついて行って！」
　指示を受けたカメラマンの一人は、急いで豪の後をついて行った。

　砂浜の方に戻ってきた一行が海沿いを歩いていると、
「猫がいるのだ！」
　と真央が猫を発見した。真央はきゃっきゃとその猫の元へと近寄った。どこかから煮干しとマタタビを取り出し、猫にあげようとした。
　しかし、ここは無人島で人もあまり立ち入らない鈴島。人に慣れていない猫は、すたこら逃げていってしまった。
「逃げられちゃったのだ……」
「どうしてこんなところに猫がいるんでしょうね」
「昔は人が住んでいた時期もあったらしいから、その頃の住人が飼ってて繁殖した……とか？」
　天野はそう仮説を立ててみたが、実際どうなのか、確かめる術は今のところない。
「まあここも地続きでないとはいえ、寝子島の一部だからね。猫がいたところで驚くことじゃないさ」
　しばらくすると、豪とカメラマンの一人が戻ってきた。
　豪としてはもっと探索したかったのだが、番組としては鈴島だけに時間を使っていられない、ということで渋々戻ってきたようだった。
「見たところ、飲み水が確保出来るところは無さそうだったな」
　もっと時間に余裕があればそれも見つかったかもしれないが、残念ながら今回は時間切れだ。
「遺跡は見つかりましたか？」
「それは探してないんだ。探検部のキャンプでのお楽しみにとっておこうと思ってな！」
　楽しみだね、と天野は言った。

　帰り際、豪は海上タクシーの船長に話を聞いていた。
「エノコロ岬のあたりのボート情報について、何か知りませんか？」
「その辺には何も無かったと思うが、星ヶ丘になら貸しボートがあったはずだ。だが出来ればまた今度渡る時も、この船を使ってもらいたいもんだな。学生だったら安くしておくよ」
「何かあった時のために、自力で寝子島に渡る方法が欲しいんだ」
「緊急事態だったら連絡を貰えればすぐに向かうが、夜はどうだかなあ……船には手漕ぎのゴムボートも積んであるから、それを貸し出すことなら出来るぞ。だが本当にいざというときは、警察か消防に連絡しろよ」
　フツウはそれが正しい選択であるが、ろっこん絡みの事件の時はそうもいかないことを、ひとである船長は知らなかった。

　鈴島探索を終え、一行は星ヶ丘に戻ってきた。豪は船長に聞いた星ヶ丘の貸しボート情報を収集するため、ここで別れることになった。
　スタッフが次に向かう場所を考えていると、そういえば、と真央が言った。
「星ヶ丘ホースクラブでイベントがあるって聞いたのだ。優しくて美形なお兄さんに丁寧に教えて貰えるらしいのだ」
　取材班もその情報は事前に知っていた。そのうえ、星ヶ丘では他に行く宛もない。
　次の行き先は、星ヶ丘ホースクラブに決定した。