ボイスコンテンツ搭載！　大きな声を出そう！｜リアクション

ボイスコンテンツ搭載！　大きな声を出そう！

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『ふー』

――あれ。
　文字ブロックを見て、目を丸くする小山内海。
（さっき、ネットで見たやつだよね）

　ＳＮＳには、寝子島の変事についてさまざまな情報が飛び交っている。
　今日はどうやら「自分の出した声が固まってしまう」というものらしかった。
　
（私には関係ない異変だなあ･･････）
　海はそう考えて、ちょっと俯く。
　幼い頃の出来事の後遺症で、彼女は言葉を紡ぐことができない。
　音声を介してのコミュニケーションがとれないのだ。
　会話はもっぱら持参したホワイトボードなどを通じて行う。
　最近はサポートしてくれるアプリなども増えてきた。
　幸い、友人や身内に恵まれて、今まで意思疎通で苦労したことはない。

　それでも。
　――繊細な歌声で、観客を魅了する歌手。
　――声の微妙な変化で、様々なニュアンスを表現する役者。
　そうした『声のプロフェッショナル』の姿を見るとき、海の抱く感情は、他の人が抱く者と、少しばかり色合いが違うかもしれない。
　声という、ほとんどの人にとって、ごくあたりまえのもの。
　それが自分にとっては、普通のものではない。

　あらためて、そんなことを考えてしまう。

　ぽろりと吐いたため息。
　それが形をとった。

（私、しゃべってないけど･･････）

　膝の上のかたまりを見つめる。

（んー、声にしようと思うと、出てきたりするのかな？）

　――ちょっと、試してみよっと。

「･･････」

　目をつむって、言葉を念じる。

『あいうえお　』

（あ、でてきた！）
　再び、空中で浮かぶブロック。
（私には関係ない異変だと思ってたけど。
　自分の思っていたことが、形になる。
（こうして出てきてくれるなら――楽しそうかも）

『ありがとう』
『こんにちは』
『ごきげんいかがですか』

　つぎつぎにあらわれる言葉。
（ええと･･････）
　海は思い浮かんだ詩の一節を思い出す。

『小鳥』『すず』

（みんなちがって･･････）
　多くの人間の目に触れて、多くの人間に勇気を与えた詩。
　それは歌声に関するもので、海も勇気づけられた。

　海の『小鳥』は、躍動感に満ちた形。
『すず』は小ぶりでかわいらしい。
（思い方でフォントが違う･･････）

（そうだ、せっかくだから色とか塗ってみようかな）

　思い立って、絵の具とパレットとを取り出す。

（せっかく物理的な形になったんだし、フォントに合わせていろいろ塗ってみよう）
　自分の声が、まるで自分の手による作品のように思える。
『小鳥』は白とソーダブルー。
『すず』は華やかな金色。
　窓際に飾ってみると、すごく素敵だ。

（もっと、もっといろんな言葉を出そう）

　あの言葉は、あの色で･･････。

　こっちの文字は、この色で･･････。

　つぎつぎに沸いてくる着想。
　声というものがこんなに楽しいなんて。
　まるで初めて世界に触れたような感動が、海のこころを浮き立たせる。

（あっ！）

　窓際に飾っておいた言葉が、うっかり滑り落ちて、窓の外に落下する。
　慌てて窓の下を見下ろす海。

（あ、あの下にいるのは）

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