【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　佐和崎紗月は何度目かの溜息を吐いた。グラウンドの目立たないところをうろうろする。
　一方にちらりと目をやる。スタートラインに第一走者の姿は見えなかった。複雑な表情となって目を伏せる。
　――理緒ちゃんが組対抗リレーのアンカーで出る。私はいつも側にいるからわかるんだけど、それってとても大変なこと。グラドルの仕事は相変わらず忙しいし、受験勉強もしないといけない。
　その合間に走る練習をしていた。太陽が月に代わっても諦めない。黙々と汗を流していたことを私は知っている。だから、結果を見るのが怖い。勝って欲しいと思うけど、とても怖くて……。
　睫毛を微かに震わせる。拒絶するような顔を無理にスタートラインへと向けさせる。
　第一走者が集まっていた。驚いた顔でアンカーの姿を探す。
　一気に表情が明るくなった。そこには微塵の不安も見られない。
　紗月は軽やかに走り出す。間近までいって一心に見詰めた。指を組み合わせて祈るような姿となった。

　入念に身体を解す。仕上げに手首や足首を回し、程良く全身の力を抜いて何度か跳んだ。
「こんな感じかな」
　初瀬川理緒は勝ち気な表情となって校舎裏から離れた。グラウンドに目をやると大勢の観客がいた。ブルーシートには家族のような人達がいた。チアガールの姿もちらほらと見られ、競技の間を埋める為に精力的に動いている。
「人が多いと燃えるよね」
　ポニーテールに結んだリボンを締め直す。物怖じしない態度でアンカーの位置についた。さっぱりとした顔で軽く伸びをする。
「……何だろう？」
　それとなく視線を向けた。祈りを捧げる紗月の姿が目に入る。相手を安心させる為なのか。強気の笑顔でウインクを送った。
　気付いた紗月は全てを理解したかのように大きく頷いた。揺るぎのない強い目となった。
「当然よね」
　拳を固めて高々と上げて見せる。
　紗月の近くにいた数人の男子グループが俄かに騒がしくなった。
「グラドルの初瀬川理緒に似てないか？」
「言われてみれば」
「少し遠いし……でも似てるかも」
「似てるだけですよー！　全然、違いまーす！　でも、応援よろしくねー！」
　理緒はおどけた調子で返した。数人の男子は顔を見合わせて、ほぼ同時に手を合わせた。「応援するよ！」
「俺も白猫組だから！」
「ありがとう！」
　大きな声のあと、理緒は肩を上下させた。軽く回してみる。
「肩の力も抜けたようね」
　理緒は笑って、その場に待機した。
　スターターが第一走者を一瞥して号令を掛ける。全員の表情が引き締まった。
　空に向けて高らかと発砲音が響く。
　綺麗な飛び出しに観客が沸いた。熱い声援が飛び交う。
「白猫組も、黒猫組も、みんな頑張れぇー！」
　胸に黄色い星を付けた曖浜瑠樹が飛び跳ねる。頭の左右に両手を引っ付けて、お星さまうさぎぃー、と叫んだ。
「みなさーん、頑張って走ってくださいねー」
　露出度の高いバニーガール姿の巫部紫苑が豊かな膨らみを激しく上下させた。
「白猫組、ファイトオオオオ！」
　その隣ではチアガールの格好をした雨崎楓香が乱舞した。
　バトンは第二走者に移った。順位が目まぐるしく変わる。
「アンカー勝負ね」
　理緒は後ろを見た。突っ込んでくる仲間に合わせてスタートを切った。バトンを渡され、しっかりと握って全力疾走に移った。
　ポニーテールが風を受けて激しく暴れる。理緒は目を見開いて走る。ゴールだけを見ていた。
「理緒ちゃーん！　そのまま逃げ切ってぇぇぇっ！」
　一際、高い声が響き渡る。
　理緒は微かに笑った。最後の一歩は大きく、飛ぶようにしてゴールを切った。
　地鳴りを伴うような歓声が第一グラウンドを包み込んだ。
　理緒は安らいだ表情で、その身に受けた。