暴け！　大人だけのヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　大人だけのヒミツの暗号

「わかったぞ！　これは、遺産を狙ってる悪巧みだな!!」
　白石龍樹は左手を腰に当て、右手では入り口で拾った紙を握り高々と掲げる。
　予想以上の推理劇となりそうで、大人たちは固唾を呑んで見守っていた。

　ここは、古書喫茶『思ひ出』。
　その名の通り古書を扱い、店主の柏村文也がこだわりだか趣味だかのコーヒーを淹れてくれる、読書にうってつけの静かなお店――の、はずだった。つい、数十分前までは。
　このお店は『悪の秘密結社』ではないかと寝子島少年探偵団に怪しげなメモをつきつけられ、それは面白いとばかりに文也が悪ノリしたために、子供たちの謎解き大会が始まったのだ。
　そのメモというのが、―314513　729323　151574―。この数字の羅列を語呂合わせだと睨んだ龍樹は、『さいしごいさん』つまり、『妻子ご遺産』か『サイ死後遺産』だと名推理を披露し、一人うんうんと頷く。
「暗号……つまり、人に見られちゃマズい話ってことだ。遺産の話をするのにもってこいだぜ」
「なるほどねぇ……遺産狙いとは、確かに悪だ」
　まるで他人事のように同意する文也に、少し警戒するのは佐藤瀬莉だ。
　もう小学校も来年で卒業という齢となり、悪の秘密結社だなんて物は話半分だと思っていたが、遺産狙いの犯罪組織だとしたら、それはもっと現実味があるかもしれない。
　そんな怯えた瀬莉の様子を見ていた旅鴉月詠は、どう話に加わるか考える。このまま放っておいても害は無いし、悪い魔女として悪役も捨てがたい。しかし、あまりの見当外れな龍樹の回答に、つい口を挟みたくなってしまったようだ。
「いや、その暗号は――」
「す、すっごい閃きだよなー!?　さっすが探偵くんだ！」
　しれっと答えを言おうとした月詠を、志波武道は既の所で食い止める。
「月詠ちゃん、ここは彼らに花を持たせてあげようよ」
　コソコソと武道たちが言い合っている間に、なんとか龍樹の推理を修正しようと鴻上彰尋は彼の目に留まるよう手を挙げて質問をした。
「遺産問題だとすれば、早く解決しないといけないね。続きは、なんて書いてあるのかな？」
「俺もそこには苦戦してるんだ。うーん……『何組兄さん』……『行こ行こなし』？」
　語呂合わせでは、ここで手詰まり。そんな様子に少しだけホッとして、彰尋は改めて交流ノートを手にとった。
「１つの暗号からじゃなくて、たくさんの暗号を見たほうが、もっと閃くと思うんだ。どうかな？」
「敵の情報は、多いほうがいいもんな！　悪事を絶対にあばいてやるぜ！」
　これで、龍樹たち少年探偵団も、違う解き方に興味を示すだろう。武道と彰尋は胸を撫で下ろした。
「もう、私は自由か？」
「ご協力ありがっとー☆月詠ちゃん」
「子供たちの楽しみを奪うつもりは無かったんだがな……で、武道は解けているのだろうね？」
「あはは……まだ一部がちょっと……」
「わからないなら、そこだけ飛ばして平仮名を起こすとよいだろう。読みにくくともなんとなく読めてしまえるはずだ……平仮名だけならね」
「……？　……なるほどっ！　そうやって解くのか!!」
　武道は文也に、使っていないノートとペンを借りてメニュー表とよく似た物を書き写す。わかっている部分だけでも埋めれば、今度は歯抜けで浮かぶ仮名文字の並びから普段見聞きしている単語を連想し、わからない暗号部分がわかるようになるという寸法だ。
「……まず、ある程度のところまであの子達が辿り着かないと、花は持たせてあげられないのでは？」
「難しいな……個人的に解いて待っておくか」
　どこまでがヒントで、どこからが答えになるのか。子供扱いしすぎず、探偵としてやる気をだしてくれる塩梅は、とても難しそうだ。
　武道は、交流ノートを食い入るように見始めた子供たちに、色々言いたくてたまらず、ソワソワと周囲を歩いていた。

このページにイラストを設定する