暴け！　大人だけのヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　大人だけのヒミツの暗号

　本がたくさんあるのに美味しそうな匂いがする。そんな自分の好きなものがいっぱい詰まってそうなお店に吸い込まれるようにしてやってきた見帰り沼のコトコは、お店の本棚を見上げるのが楽しくて話題に乗り遅れてしまった。
「う？　あんごー？」
　なんとも面白そうな響きである。
　まだ文字は平仮名とカタカナを読むのが精一杯で書くことはできないが、本が大好きな自分なら何かわかるかもしれない。
「てんちょーしゃんてんちょーしゃん、あんごーってなんれすか？」

「おや、それを拙者に聞いて良いのかな？　悪の道に迷い込んでもしりゃせんぜ？」
　くつくつと文也は笑ってみせるが、コトコは要領をえず「あく？」と小首を傾げている。
「悪の秘密結社のボス！　子供をたぶらかそーったって、そうはいかないんだからな！」
　大人しくしていることが苦手な龍樹は、数字とばかりにらめっこしているのが飽きてしまったのか、それとも自分より小さな子を守ろうという正義感でか。カプセルギアの相棒、ムテンを片手にコトコの前へ飛び出してきた。
「おやまぁ、物騒な物をお持ちだ。丸腰の相手に、そいつはあんまりってもんじゃないかい？」
　よよっ、と泣き真似をひとつ。けれども、小さな探偵さんは倒してやったとばかりにふんぞり返っていた。
「絶対に悪事をあばいてやるから……えっと、腕を洗って待ってろよ！」
「うーん……首かな？　それとも、腕を磨いといたほうがいいのかな？」
　うっかり、鬼面タイガーで敵が間違えて言ったセリフを龍樹は言ってしまったのだが、本人は気づいてないようだ。
　せっかく格好良くキメたと思っているようなので、文也は笑いを噛み殺しながらも小学生向けのことわざ辞典はあったかなと思い馳せ、龍樹は、小さな女の子の安全を確認するように振り返った。
「お前、幼稚園か？　名前は言えるか？」
「とーは、みぬまととこゆーれすお！」
「ととこ？」
「とここ！」
「とこ……？」
「モガ―ッ!!」
　癇癪をおこしながらもコトコは上履きいれのカエルさんワッペンをめくりあげる。そこには『みぬまことこ』と書かれていた。
「コトコだな！　おれはリョージュ。まだ子供会入ってないだろうけど、特別に少年探偵団に入れてやるよ。よろしく！」
「たんてーだん！　とー、たんてーやるれす！」
「よしっ！　じゃあ、アヤシイ大人がいないか、調査するぞっ！」
「おー！」
（調査……このノートのことかな？）
　すっかり読書に夢中になっていた綾辻綾花は、子供たちの暗号騒ぎを聞きつつも、交流ノートを見つけるまでは本の中の出来事だと思っていた。
（なるほど、確かに一見しただけではわかりませんね……）
　オレンジジュース片手に一冊読み終え、次の本を探そうというタイミングで見つけた交流ノート。バックナンバーが置いてあるほどには盛り上がっているようだが、中身はどれも数字が多い。
　綾花にとって身近な数字といえば、請求記号や国際標準図書番号だが、それは関係ないようだ。
　子供たちが奮闘しているということは、大人が使っているのかもしれない。綾花は、最後のページの見慣れぬメニュー表のような物をヒントに、この暗号を使っている人を探してみることにした。

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