ドネルケバブ『Gule gule!』｜リアクション

ドネルケバブ『Gule gule!』

●昼食は手軽に、美味しく
　
　昼休みになったので、三折部朝衣はランチに行こうと勤務先の寝子島町役場を出た。
（そういえばもう夏休みも終わりだっけ……？）
　高校を出て２年しかたっていないのに、社会人になった彼女には長い夏休みなんてものは遠い過去のものに。
「今日は何を食べようかな……」
　昨日はあれだったし、その前はあれだったし……と歩きながら食べた昼食を思い出す。
　何にしようか決まらないうちに外に出たのはいいが、休み時間なんてあっと言う間だ。
　じっくり考えて決めてしまうと、あっというまに貴重な休み時間が無くなってしまう。
　どうしようかと考えていると、役所からそれ程離れていない場所でオレンジのケータリングワゴンがドネルケバブを売っていた。
「ドネルケバブの店ね。何度か食べたことがあるけど、美味しいんだよね」
　ということで、お昼はあのワゴンで売っているドネルケバブにすることにした。

「おじさん、お久しぶり。ケバブちょうだい」
　ワゴンに近づき、汗をかきながら張り切ってケバブを作っているバルシュ・コルテュルクに声をかける。
「よう、いらっしゃい！　久しぶりだな！　今日のソースは何にする？」
「そうね……今日はスペシャルソースで。デザートにドンドルマをカップでお願い。全部お持ち帰りで」
「毎度あり！　美味しいケバブを用意するよ！　ちょっと待っててくれ！」
　注文を聞いたバルシュは張り切って肉を薄く削ぎ、ピタパンに野菜と肉を詰め込んでからスペシャルソースをたっぷりと。
　包み紙にソースと肉汁がちょっとしみ込んでしまったが気にしない。
　ドンドルマはカップに入れる前に、棒で練って伸ばすパフォーマンスを。
「ケバブだけじゃなく、ドンドルマもおすすめだよ！　そこのお客さん、どうだい？」
　パフォーマンスの最中のセールストークも忘れない。
　陽気なバルシュの明るい笑顔とパフォーマンス、気温が高いこともあり、ドンドルマは売れ行きが良い。
　愛嬌あるパフォーマンスに朝衣は「すごいわ！」と拍手。ストリートパフォーマンスを見ているような楽しい気分に。
「ケバブとドンドルマ、お待ちどう！」
　紙袋に入れたアツアツのケバブとドンドルマ入りのカップに入れたバルシュは、太陽のような明るい笑顔で手渡した。
「ありがとう、おじさん。また今日みたいに、この近くで売ってね」
「いつか、また来るよ。その時は買いに来てくれよ！」

　ケバブとドンドルマを受け取ると自販機で缶コーヒーを買い、ケバブを職場の自分の席で食べることに。
「んー……美味しい」
　一口食べると口の中でトマトとヨーグルトのソースが肉や野菜に絡み、憎たらしいまでに食欲をそそる。
　食べ始めたら止まらない。そんな感じの勢いで朝衣はケバブを食べる。
「先輩、何を食べているんですか？」
　今年は言ってきたばかりの大卒の後輩が覗き込み、朝衣の昼食を見る。
「役場の近くに停まっていたケータリングワゴンで売っているケバブよ。ソースがすごく美味しいわ」
　いいな、と後輩に羨ましがられた。
　残り少なくなったケバブを見て、おいしいものを教えないわけにはいかないわねと思った。
「今日は無理だけど、今度また連れて行ってあげるわ。本当においしいんだから、ここのケバブ」
「楽しみです！　約束ですよ、先輩」
　瞳を輝かせ、先輩がおいしそうに食べているケバブを早く食べたい！　とソワソワする後輩だった。