ドネルケバブ『Gule gule!』｜リアクション

ドネルケバブ『Gule gule!』

●夕方のすきっ腹とケバブ

　夕方。
　バスケ部の練習を終えた羽生碧南は、後片付けした後にシャワーを浴びてから制服に着替え、学校を出た。
　このまま桜花寮へ直行……といきたいところだが、朝から夕方までずっと練習に明け暮れていたので、強烈な空腹に見舞われた。
（お腹すいたな……）
　そう思った時、寝子高と桜花寮のちょうど中間点辺りで肉が焼けるいい匂いが漂ってきた。
　空きっ腹が動転して騒ぎ出しそうなのを抑えながら、匂いが漂ってきた方向に視線を向けるとオレンジ色のケータリングワゴンが停まっていた。
「よう、いらっしゃい！　ドネルケバブ、食べていかないか？」
　陽気なバルシュ・コルテュルクの声と良い匂いにつられ、碧南はワゴンに一直線。
「ケバブ？　何それ？」
「ケバブってのは、トルコ料理の中でもっともポピュラーな料理だ。炙り焼きした肉を削ぎ、ピタパンに野菜と一緒に挟んで食べるんだ」
　トルコ料理版サンドイッチみたいなもの？　という碧南の問いに「そんなもんだな！」とバルシュは笑って答えた。
　説明を聞いてみると、それだけでおいしそうだとわかる。ワゴンから漂う匂いがそれを証明している。
　寮に帰るまで、この空きっ腹が我慢してくれるとは思えない。ということで。
「おじさん、ケバブちょうだい。トマトソースで。トマト好きだからソースは多めにお願い！」
「トマト多めね！　今、作るから待っててくれ！」
　待っている間、碧南は早く食べたーい……と待ちきれない様子だった。

「お待ちどう！　トマトソースとトマトたっぷりのドネルケバブだ！」
「わあ、おいしそう！」
　代金を支払うと「待ってました！」とまずはピタパンのふちを一口。
「んー、おいしいー！」
　ざっくり切られたトマトの食感とジューシーな肉がよくマッチしているトマトソース。
　スライスされた野菜とカットしたトマトといった野菜もシャッキリしていて、それらとピタパンが本当によく合っている。
　野菜だけでなく、肉にも味がしみ込んでいて、肉汁がピタパンから滲み出ている。
　空腹だったこともあり、ケバブをあっと言う間にひとつ食べてしまった。
（追加分、買えるかな？）
　財布の中を見てみると、千円札が１枚入っていた。
　ケバブは５００円なので、ついでにドンドルマも買える。
「決めた。おじさん、ケバブのスペシャルソースとドンドルマをカップ、追加注文ね！」
「毎度あり！　食欲があるのはいいことだぜ！」
　自分が愛情込めて作ったケバブを喜んでもらえたことが嬉しくなったバルシュは、追加注文のケバブを作る。
　ドンドルマは昼間でもやったパフォーマンスを交えて売った。
「すごーい！　おじさん、芸達者ね」
「そう言ってもらえると嬉しいぜ！　お客さんに評判いいんだよ、このパフォーマンス！」
　目と舌で楽しめるうえ、待ち時間を退屈させないいいお店ね、と碧南は思った。
　
　楽しんでいるうちに、追加注文のドネルケバブができあがり、ドンドルマがカップに入れられた。
「ドンドルマは溶けにくいけど、長時間放置すると溶けるから気をつけてな！」
「ありがとう！」
　追加分は寮についてから、と思ったが、お腹がすいているので歩きながら食べる。
（お行儀悪いけど、美味しいものはすぐにでも食べたいしね）
　追加分のケバブは、ヨーグルトの酸っぱさが食欲をそそるおいしさだった。
　これもあっという間に完食したので、カップ入りのドンドルマを食べ始めた。
「このアイスもおいしいー！」