さーさーさらさらさくさくさ。｜リアクション

さーさーさらさらさくさくさ。

◆ピースを求めて、それぞれが。

　喜好は謝った。心の底からの他意のない純粋な謝罪。
　つまり強盗自体を諦めたということになる。

「痛くなかった？」
「平気。ありがとう」

　逆巻が北原を解放する。
　お互いそれ以上会話を交わすことなく、喜好を注視する。
　喜好は唇を固く閉ざし、一向に動く気配さえない。

「ね、ねぇ！　僕が作ったお菓子じゃだめ？　不味くは無いと、思うのだけど……」

　勢いをなくし尻すぼみになる言葉。
　花風ももは鞄から自作の菓子を取り出し、おずおずと喜好の前に持っていく。
　迷うようにしゃがみこみ、目線を合わせて、もう一度ダメかな？　と尋ねる。

（なんとか解決してあげたい）

　上目がちで喜好を見つめる花風だったが、思いはまっすぐ。
　その思いが伝わったのか喜好は小さな手で受け取る。

「ありがと……」

　しかし、また押し黙ってしまう。
　重い静寂。

「修ちゃん、天野ちゃん、円ちゃん……名案ないのだ？」

　堪えきれずに後木が口を開く。

「だってろっこんはその人の願いなのだ、この子のお願いはそれだけなのだ！」

　彼を助けたいと声を荒げた。
　その声を受けて、逆巻が喜好に近づいていく。

（僕が彼に協力した理由は、牛乳配達してる傍ら、もしかして、と行動に心当たりがあったから……）

　自身の記憶を何度もたどるが、それでも自信は持てない。
　
（勘違いかもしれないけど）

　息を吐いて、吸って。気持ちを落ちてけてから声に出した。

「ねぇ、僕たち、会ったことあるよね」
「え？」

　思いがけない言葉に喜好は顔を上げる。
　そしてマジマジと逆巻を凝視した。

「牛乳配達の、お兄さん？」
「ああ、そう。やっぱり」
「一体どういうことか分かりやすく説明してくれないか？」

　桜井が、納得している逆巻に説明を求める。
　逆巻は許可を求めるように喜好を待ち、やがて彼が頷いたので語りだした。
　
「その子何度か見かけたことがあるんだよ。新聞配達をしてるところを。で、こけて新聞をひっくり返してるのを見かけて、手伝ったことがあったんだ、よな？」
「……うん」
「最近会わないし自信はなかったんだけどね」
「もう、やめたんだ」
「ふーん」

　一度会話が途切れる。
　そして逆巻が唐突に質問をする。

「一番美味しいお菓子は何か知ってるかい？」
「う、んと。多分」
「何だと思う？」
「ママの作ったお菓子」

　わかってるじゃないか。
　逆巻はにやりと笑う。

「じゃあそのママにとっては？」
「え？」
「ママが美味しいと思うお菓子」
「君の手作りじゃないのかい？　折角だから材料と技術も強盗していきなよ。店主にここで教えてもらってね」

　喜好の返事はない。

「君が材料にされないように気をつけて？」

　最後に意地悪く囁く。
　それでも返事はない。

（何が引っかかってるんだ……？）

　逆巻は表情から読み取ろうと見つめるが、何も伝わってこない。

「なるほどネー！」

　毒島イヴが嬉しそうに会話に混ざる。

「イヴも実は娘が居るデスが……娘がゴートーしたら悲しくなっちゃうデース」

　本当に泣き出しそうな表情になるイヴ。
　次は心底嬉しそうに笑う。

「でもお菓子作ってくれたらトテモ嬉しい！　ボーイ、今からボーイがお母さんの為にお菓子を作るのデース。イヴも手伝うネ」
「待て、それはダメだ」
「ナンデよ！」
「イヴ、料理はとにかくダメだ」

　殺し愛をはじめた二人をよそに荒井が喜好の肩に手を置く。

「協力しますよ」
「あの、僕も……！」

　花風も挙手する。

「喜好くん。どうしたの？」

　北原の問いかけにも答えない。

（ふむ、そろそろですか）

　荒井に芽守が声をかけ、奥の部屋に入っていく。
　テーブルに今までのメモを並べ、目をつぶり深呼吸を。
　息を吐く。息を吸う。目を開ける。

「推理開始」

　口の中でつぶやくとメモの中から文字が浮かび上がってきた。

「なるほど」

　頷くとそれを伝えるべく、席を立った。

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