寝子島の休日｜リアクション

寝子島の休日

　　　６

　雅樹たちが通りに飛び出すと、そこにタクシーが二台停まっていた。
　その横に、
「やあ」
　にこやかに挨拶する八神修の姿があった。
「何やって……」
　怪訝な顔をする雅樹に、まあ乗って、と修はドアを指し示した。
　雅樹、莉鳥、巧は後ろへ。ソフィ、美野梨、心は修と共に前のタクシーに乗る。
「八神くん、どうしてここに？」
　美野梨と修は、同じクラスである。
「騒ぎを聞きつけて」
　修の答えは素っ気ない。「――話を聞こうか」
　美野梨の説明は、莉鳥が雅樹にしたものと大差ない。ただし、巧が困っている、という部分は除かれているが。
　ふうん、と修は相槌を打った。
「追われている？」
　ソフィはおずおずと頷いた。
「そうか、なら、着替えないと」
「！？」
「だって、追われているのにそのままじゃまずいだろ？」
「……でも、お金ないです」
　先程のタクシー代で、手持ちの現金はほとんどなくなったという。クレジットカードは、なるべくなら使いたくない。
「いいよ、俺が払うから。貸しておく」
　一行は、キャットロード近くでタクシーを降りた。
　修は巧たちにも着替えるよう勧めたが、
「いらないわ」
「人に借りは作りたくない」
「それよりご飯が食べたいです！！」
と、それぞれ断られてしまった。
　美野梨や心もまた、丁重に辞退する。心に至っては、修を睨んですらいた。
　ソフィが服を選んでいる間、ちょっと、と修は席を外した。
　店の外で巧がクレープを買うのを見ながら、修はタブレットを取り出した。いくつかの単語を打ち込むと、電話番号とメールアドレスが表示された。少し考え、メーラーを立ち上げる。
　大使館宛ての電話は多いという。やり取りに時間がかかっては、ここから先の行動に支障が出る。
　無論、メールの数も膨大だろうが、件名に「ソフィア王女について」と書き込んでおけば読んでもらえる可能性は高いはずだ。
　修はそのメールに、以下のことを書き込んだ。
「・観光を強く望まれてるので
　・無理な確保は抵抗され怪我を負わす恐れがある
　・気持ちが砕けて公務に障る恐れも
　・なので時間まで待機を」
　身元を証明するため、名前と共に電話番号も記載しておく。
　送信し終わったところで顔を上げると、ソフィが試着室から出てくるところだった。Tシャツにジーパン、足元はスニーカーだ。初めてジーパンを穿くと照れ臭そうだ。
「さて、次はどこ行く？　猫カフェ？　路地裏？　神社は行ったかな？」
　修はにこやかに話し掛けた。