寝子島の休日｜リアクション

寝子島の休日

　　　７

　寝子島神社に向かうため、一行は電車に乗ることとなった。
「元の駅に戻るんですか？」
「そこからの方が近いからね」
と修。
「最初に行けばよかったわね」
　だが、とにかく魚市場！　と美野梨は思ったのだ。神社は帰りでいいだろうと考えていたし、そもそもシーサイドタウンまで行くつもりはなかった。
　既に時刻は五時近いが、周囲はまだ明るかった。猫たちは昼間の焼けつくような暑さから解放され、思い思いの場所で涼んでいる。
　水の傍はいくらか空気が冷たいのだろう、境内よりも耳福池の方に猫は集まっていた。
「可愛い……」
　修のくれたおやつに、猫たちが集まってくる。ソフィの手や足元にすり寄り、指についた液体おやつを舐め取る。
　くすぐったさにソフィはくすくす笑う。反対側の手で額を撫でると、猫は糸のように目を細くした。
「東門、お前もどうだ？」
「ぼ、僕は別にいいです……」
　嫌いではないが、舐められたり毛がつくのは嫌で、巧は猫たちから距離を取った。
「はいこれ、プレゼント」
　美野梨が小さな紙袋をソフィに渡した。中には、猫の形をしたお守りが入っていた。それを見たソフィの顔がぱっと輝く。
「可愛い！」
「でしょう」
「おいくらですか？」
「お金はいいわ」
「でも」
「今日の記念にプレゼント」
　うふふ、と美野梨は微笑んだ。コミュニケーションを苦手とする彼女だが、猫が絡めばその限りではない。
　ソフィが心優しい少女であるのは、猫たちに聞いて分かっている。猫たちがソフィにどんな感情を抱いているか、美野梨は教えたくてうずうずしていた。
「――おい、おかしくないか？」
　最初に異変に気付いたのは、雅樹だった。
「どうかした？」
と莉鳥。
「人が減ってないか？」
「夕方だからじゃないですか？」
　屋台で買ってきたたこ焼きをパクつきながら、巧が答える。
「よく食うな、お前」
「朝から食べてなかったんだから、しょうがないでしょ」
　巧は決して、太ってはいない。むしろ細すぎるぐらいだ。が、それでも五十キロはある。「缶詰」で固まった巧を運ぶことの多い雅樹としては、もっと痩せていてもいい。何なら、五キロでもいい。
　しかしそれでは、痩せすぎで危ないしな、と雅樹は嘆息する。
「……確かに妙ね」
　莉鳥は呟いた。「移動した方がいいかもしれないわ」
　ソフィを促し、一行は寝子温泉に向かった。枯れ気味ではあるが、温泉ということもあって、いつもは観光客も一定数いる。
　しかし、
「やっぱり、おかしい」
　全く人気がないのは、珍しいことだった。
「人がいないわけじゃなさそうだ」
　黒いスーツを着た男たちが現れ、修が舌打ちする。送ったメールには、電話番号とアドレスを添えてあった。探知してここまで来るのは、容易いはずだ。
　てっきり見守っているのかと思ったが、待ちきれなかったのだろうか。周囲から人を追い払ったというのが、気になるところだ。
「まあ、責任は取ろう」
　ここに彼らを呼び寄せた原因は、自分にある。修は時間稼ぎを引き受けるつもりだった。
「――行け！！」
　修の一声で、一行は駈け出した。

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