潜入！夜の寝子島マリンパラダイス｜リアクション

潜入！夜の寝子島マリンパラダイス

「お魚さん驚いたかなー」「ごめんねー」

　夏休みが終わろうという、八月の末。
　シーサイドタウンにある寝子島マリンパラダイスは、夏休みの影響もあり大盛況だった。
　熱い日差しも気にならないほどに涼しい館内と、室外の大きなプールで夏を感じながら行われる数々のショー。
　穏やかに泳ぐ色とりどりの魚を眺める家族連れが多い日中が過ぎ、会社帰りであろう大人の恋人たちが訪れる頃には、昼とは違ったBGMで夜行性の生き物が出迎え、ライトアップされるナイトショーが始まる。
　そしてまた、閉館を迎える頃――僅かな人に向けてのナイトツアーが始まるのだ。

　入館の受付を済ませると、参加者は入館証代わりのリストバンドを手渡された。
　バックヤードの見学に入るときなどのグループ分けも兼ねており、リストバンドの色ごとにタイムスケジュールがやや異なるため、予定表も用意されている。裏面は夜行性動物を記したマップと、簡単なクイズがついており、小さな子でも飽きがこないような工夫が見られた。
「将尋、千里、この地図をしっかり持って。ここに、起きてる生き物が書いてあるから」
「寝ながら泳いでるお魚はいるのかなー？」
「わたし、クイズ全部やりたいー！」
　昼の水族館でも、大きな水槽に見慣れない生き物がいることでテンションが上がりやすいのに、それが夜ともなれば子供たちはちょっとした探検気分だ。鴻上彰尋は、この元気いっぱいな双子の弟妹の面倒を見きれるかどうか、入口にして幸先が不安になってきた。
「動物たちは敏感なので、館内ではお静かにお願いしますね」
　水族館に勤めるエリオット・Ｅ・シートンは、将尋たちと目を合わすようにしゃがんで微笑んだ。
　寝ている生き物を、自分たちの声でびっくりさせてはいけない。二人は予定表で口を覆うと、揃って頷いた。
「はしゃいでしまってすみません」
「いいえ、楽しみにして下さって嬉しいです。薄暗い道が続きますから、はぐれないように気を付けてくださいね」
　魚たちによるお出迎えの水中トンネルは、フットライトが微かにあるだけで、まるで洞窟の中のように暗い。けれども、その僅かな明かりが水にきらめいて、夜の海に潜ったようにも見えた。
　ゆったり漂うエイの裏側は、コミカルなようで暗がりで見るにはちょっと怖く、彰尋の両手は、すぐにぎゅうっと握られた。
「大丈夫だよ。そんなにくっついてると、宿題ができないぞ？」
「ち、違うよ～っ。これは、怖いんじゃなくて、えっと……」
「起きてる魚がいるところまで、お兄ちゃんにエスコートしてもらうだけよっ」
（これ以上からかって子ども扱いをすると、きっとむくれてしまうな……）
　そう思った彰尋は、苦笑しながら二人の手をとって先へ進むことにした。

　他に困っていそうな人はいないかとエリオットが周囲を見渡した時、何やら難しい形相でマップを見ている志波武道に気づいた。
　宿題に適した生き物が、どのエリアにいるのかわからないのかと思いながら声をかけると、武道は予想に反して照れくさそうに笑う。
「どうしても、夜の水族館じゃないと見れない物がみたくて来ましたっ！」
「夜の水族館限定ですか？　バックヤードなどはあまりお見せするものではないと思っていましたが、そう楽しみにされていると、なんとも言えない気分ですね」
「いえ！　昼行性の寝ているところが見たくて。例えば、ラッコとか」
「ラッコ……」
　武道のうきうきとした笑顔と対局に、エリオットはとても困惑した表情を見せた。心底楽しみにして来たんだろうと思うと、端的に事実を告げてしまうのは、とても躊躇われる。
「ら、ラッコやカワウソは、イタチの仲間に入るのはご存知でしたか？」
「ああ、確かにフェレットと似てる！」
「ですけど、『イタチの最後っ屁』みたいなことはしないので、安心してくださいね。逆にそれを強化したのがスカンクで……確か、北関東のどこかの動物園には居た気がしますが」
　つい、話題を逸してしまったが、職員として案内しないわけにもいかない。エリオットは覚悟を決めて、武道に事実を告げることにした。

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